『デビルズ・バス』グロテスクホラーと見せかけてブレッソン系

デビルズ・バス(2024)
原題:Des Teufels Bad
英第:The Devil’s Bath

監督:セヴェリン・フィアラ、ヴェロニカ・フランツ
出演:アニャ・プラシュク、デビッド・シャイド、マリア・ホーフステッター、ティム・ヴァレリアン・アルバート、エリアス・シュッツェンホーファーetc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第74回ベルリン国際映画祭にて芸術貢献賞を受賞した『グッドナイト・マミー』のヴェロニカ・フランツ&セヴリン・フィアラコンビ最新作。今回、初めて知ったのだが、ヴェロニカ・フランツはウルリヒ・ザイドルの妻ということで彼のプロダクションが製作に入っていた。シアター・イメージフォーラムでの特集上映オーストリア映画週間2024に来ていたのだが、「混沌矛盾虚空」と書かれた謎のTシャツを着ながら、「今村昌平の作品が好きだ」と語っていたのが印象的であった。

『グッドナイト・マミー』のイメージが強くグロテスクホラーなのかなと思ったら、確かに強烈な描写は多いのだが、ロベール・ブレッソン的な陰鬱な心理に迫る物語となっていた。

『デビルズ・バス』あらすじ

“私の狂った妄想が世界に毒を盛ったのです…。”声なきまま歴史に葬られてきた女たちの視線を通し、「暗黒の中世」の血塗られたタブーを限りなくダークに描くグロテスクなサイコドラマ。
1750年、オーストリア北部。処刑された女が、見せしめのために断崖に晒されている。それを哀れみの目で見つめる信心深いアグネス。新婚の彼女は夫との関係に悩んでいた。農村の重労働と周りからの視線に押し潰され、彼女は呪物に頼り、やがて現世から幽離していく。追い詰められた彼女に残された出口とは…?鬼才・ウルリヒ・ザイドルの脚本家でもあるヴェロニカ・フランツの長編最新作。2024年ベルリン国際映画祭銀熊賞(芸術貢献賞)受賞。

※オーストリア映画祭2024より引用

グロテスクホラーと見せかけてブレッソン系

18世紀、オーストリア北部の村。人々は、川で鯉を取る労働に励みわずかばかりのパンを得る過酷な環境で暮らしていた。そこへ夫と移り住んだアグネスだが、夫からは無視されているような感じを抱く。社会貢献しようとも、村の人々から冷たく扱われ、繊細な彼女の心は鬱に蝕まれていく。当時は鬱病といった概念がないので、自傷行為に走ると「悪魔が乗り移った」と見なされる。死にたくても死ねず、痛みが自己を繋ぎとめる中で彼女は「ある行動」にである。

本作はスローシネマとしてゆっくりアグネスの心が蝕まれていく様子を描いており、彼女の恐怖を動物のグロテスクな死でもって表現している。ロベール・ブレッソン『少女ムシェット』のような趣があるのだが、音楽の使い方や画の作りの上で彼に劣る部分があり、それを思わず悲鳴を上げてしまいそうなグロテスク描写でカバーしている。特に終盤は『ジャンヌ・ダルク裁判』そのものの演出をしているのだが、ブレッソンが群衆の足元の中に悪意を見出していたのに対し、画一的に群を捉える弱さがある。ただ、これも強烈な一撃でもってリカバリーされていた。

どうやら日本公開するようだが、物語の糸口が掴めるまでめちゃくちゃ時間がかかるのと、監督自身が言っているように「ホラー映画ではない」のでどのようにターゲティングを行うのかが興味ある。
※映画.comより画像引用