『美と殺戮のすべて』生きていることこそがアート

美と殺戮のすべて(2022)
All the Beauty and the Bloodshed

監督:ローラ・ポイトラス

評価:80点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

『オッペンハイマー』に対するモチベーションが低い中、同じ日に公開された『美と殺戮のすべて』を観にいく。本作は、観ようと思えばいくらでも手段はあったのだが、内容がかなり複雑そうだったので日本語字幕で観られるまで待っていた作品だ。そして、これが想像以上に良かった。

『美と殺戮のすべて』あらすじ

「シチズンフォー スノーデンの暴露」で第87回アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞したローラ・ポイトラス監督が、写真家ナン・ゴールディンの人生とキャリア、そして彼女が医療用麻薬オピオイド蔓延の責任を追及する活動を追ったドキュメンタリー。

ゴールディンは姉の死をきっかけに10代から写真家の道を歩み始め、自分自身や家族、友人のポートレートや、薬物、セクシュアリティなど時代性を反映した作品を生み出してきた。手術時にオピオイド系の鎮痛剤オキシコンチンを投与されて中毒となり生死の境をさまよった彼女は、2017年に支援団体P.A.I.N.を創設。オキシコンチンを販売する製薬会社パーデュー・ファーマ社とそのオーナーである大富豪サックラー家、そしてサックラー家から多額の寄付を受けた芸術界の責任を追及するが……。

2022年・第79回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞。第95回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞にノミネート。

映画.comより引用

生きていることこそがアート

メトロポリタン美術館で写真家ナン・ゴールディンが抗議をする場面から始まる。芸術家としてのキャリアを失う可能性のある、大きな相手を前にした抗議。自分の身に危険が及ぶかもしれない抗議。彼女を突き動かすものはなにか?

本作はナン・ゴールディンが劇中で語る「生きていることこそがアート」をキーワードに、彼女の人生をキュレーションしていく形で紹介していく。膨大な写真を提示しながら、姉の死、ジェンダーの話、そしてACT UP運動について語っていく。その中で彼女はオピオイド系の鎮痛剤の中毒となってしまう。この鎮痛剤を販売しているパーデュー・ファーマ社はサックラー家が運営しており、その鎮痛剤で得た莫大な利益を世界各国の美術館に寄付していた。

自分のアイデンティティである美術。それを提示する場が、殺戮をもたらしている。そんな状況に憤りを抱いた彼女は抵抗する。そして、「生きていることこそがアート」だと訴えながら前進していく。時系列を整理しながら、写真集のようにして語っていくユニークなスタイルはナン・ゴールディンが同性愛者コミュニティへ眼差しを向け、理解と周知を図ろうとしていたことに歩み寄ろうとしており、かつ彼女の行動力の源を辿る上で適切な方法だったと思う。

観終わった後にじんわり尾を引く作品であった。

※映画.comより引用