『アンソニーのハッピー・モーテル』ウェス・アンダーソン長編デビュー作

アンソニーのハッピー・モーテル(1996)
Bottle Rocket

監督:ウェス・アンダーソン
出演:ルーク・ウィルソン、オーウェン・ウィルソン、ネッド・ダウド、シェア・フォウラーetc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

ウェス・アンダーソンのNetflix短編映画『白鳥』が面白かったので、彼の長編デビュー作『アンソニーのハッピー・モーテル』を観た。ウェス・アンダーソンといえば、ドールハウス的、ストップ・モーション・アニメーション的演出が特徴となっている。長編デビュー作ではこのようなクセが抑えめとなっている一方で彼らしい演出が見受けられる一本であった。

『アンソニーのハッピー・モーテル』あらすじ

「天才マックスの世界」「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」の鬼才ウェス・アンダーソンが、盟友オーウェン&ルーク・ウィルソン兄弟主演で手がけた長編デビュー作。精神病院から退院したばかりの青年アンソニーは、変わり者の親友ディグナンが企てた強盗計画を手伝うハメに。まずは本屋を襲撃してモーテルに潜伏するが、アンソニーは従業員のイネスにひと目惚れしてしまう。やがて彼らは、大泥棒ヘンリーと組んで大規模な強盗計画に挑むが……。

映画.comより引用

ウェス・アンダーソン長編デビュー作

本作はフィルム・ノワールを外して描いたコメディである。通常、フィルム・ノワールではスカした男たちが窮地に陥りながらもスカしながら運命を受け入れていくような内容が多い。対して、本作では狼狽でもって修羅場の宙吊り状態を描いていく。終盤において、強盗たちは次々と大きなやらかしをする。脱出しようにも、バンの鍵がない。建物内で負傷した仲間が鍵を持っている。蜘蛛の子散らすようにメンバーが逃げていく中、ひとりは仲間を助けに行き、ようやくバンに乗せる。しかし、乗せた場所が悪くて車を走らせることができず、警察に囲まれチェイスが始まる。修羅場の中で見つける一筋の光が新たな修羅場を生み出していく。そして「逮捕」という運命へと転がっていく。一見すると、ゆるゆるなコメディに見えるが、フィルム・ノワールの骨格は厳格に守る。ウェス・アンダーソンの細部への執着的なこだわりはここで既に確立されていたのだ。

また彼は饒舌で情報過多な作品を作りつつも、時折明確に「見せない」演出を仕掛ける。本作の場合では、ピンボールで遊ぶ場面で確認できる。通常、ピンボールはプレイする画面の様子を映す。しかし、ここではそれを禁止とし、側面のボタンとスコアボードだけを魅せているのである。また、カット割を忌避するような姿もある。バス運転の顔と乗客としての主人公をカットではなく、パンで繋いでいたりするのだ。同様に安易なスプリットスクリーンの回避として、窓を用いる。窓の中での運動と外側での運動に違いを設けるようなことをしているのだ。

改めてウェス・アンダーソンは技術の監督だなと感じたのであった。