【東京国際映画祭】『私たちの世界』コソボ、大学には入ったけれど

私たちの世界(2023)
原題:Bota Jonë
英題:Phantom Youth

監督:ルアナ・バイラミ
出演:エルサ・マラ、アルビナ・クラスニチetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

近年、コソボ映画が密かに力をつけている。『あのこと』に出演しているコソボ出身のルアナ・バイラミの長編監督2作目『私たちの世界』が東京国際映画祭のユース部門に出品された。ユース部門はダークホースな作品が集まる部門だと有識者の間で知られている。そこにコソボ映画が滑り込んだのは熱い。ということで観てきた。

『私たちの世界』あらすじ

2007年、独立前夜のコソボ。いとこ同士のふたりの女性ゾエとヴォルタは、親の決めた相手と結婚するぐらいしか未来のない退屈な田舎での生活を捨て、より自由な生活を求めて車で首都プリシュティナに向かう。ふたりはプリシュティナ大学に入ろうとするが、志望した英文科に入れず、不本意ながら経済学科に入学する。だが、そこで待ちうけていたのは大学内部のさらなる混乱だった。そんななか、ふたりは体制に反抗的な若者たちのグループと知り合う。『燃ゆる女の肖像』(19)に主演したコソボ人女優ルアナ・バイラミの監督第2作である本作は、独立を控えたコソボの混乱を若者たちの視点から描いた青春映画だ。ヴェネチア映画祭オリゾンティ・エクストラ部門で上映。

Filmarksより引用

コソボ、大学には入ったけれど

親の反対を押し切り大学へ向かうゾエとヴォルタ。しかし、彼女たちのたどり着いたコソボの大学は腐敗しきっていた。雑な事務処理により英語のクラスは取れず、授業の時間になっても先生は来ない。単位を金で買うだけの授業になんの意味があるのだろうか?運営と学生との間では激しい対立が起きているが、全く改善される兆しは見えない。取り敢えず受講できた興味ない授業に食らいつくもジワジワと彼女たちは堕ちていってしまう。クリスティアン・ムンジウ『エリザのために』を彷彿とさせる、学業にしがみつかざる得ない焦燥感がヒシヒシと伝わってくる作品。一見すると、問題提起だけ行い放り投げてしまっているような物語に見えるが、停滞したコソボ社会の絞り出すような叫びが聞こえてきてこれはこれで必然的な演出に感じる。また、全編、ギャーギャー泣き叫び、全てを見せているようで、中盤に起きるある事件を日常の延長にある突発的なものとして提示しつつ、決定的な瞬間自体は見せない。行間によって悲劇を強調する手法がかなり尖っており、一瞬垣間見えるバキバキに決まったショットが効果的なものとして私の目に映った。個人的に、事前のスペースでKnights of Odessaさんや済東鉄腸さんからルアナ・バイラミについて聞いていたのでアーカイブを再聴したいのと、彼らのこの作品に対する見解を伺いたいところだ。

※映画.comより画像引用