マチネー/土曜の午後はキッスで始まる(1993)
MATINEE
監督:ジョー・ダンテ
出演:サイモン・フェントン、オムリ・カッツ、ケリー・マーティン、リサ・ジャクブ、ジョン・グッドマンetc
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
なんとなく、ジョー・ダンテ監督の『マチネー/土曜の午後はキッスで始まる』を観た。ジョー・ダンテといえば『グレムリン』で知られる監督。そんな監督が映画館を舞台にした青春映画を作っていたのだが、これがとっても変な作品であった。
『マチネー/土曜の午後はキッスで始まる』あらすじ
1962年、フロリダ州キーウェスト。海軍に勤務する父の転勤でこの町に越して来た14歳のジーン(サイモン・フェントン)は、今日も弟のデニス(ジェシ・リー)と映画館通い。毎年のように転校を繰り返す彼には友達ができにくく、そんなジーンはB級映画の天才映画作家ウールジー(ジョン・グッドマン)の作品を愛するホラー映画ファン。次の土曜日の午後には、半分蟻と化した男が主人公のウールジーの新作「MANT」が公開される。その頃、ソ連がキューバに核兵器を配置しようとしていることが発覚し、アメリカは海上封鎖に出て、キーウェストの市民は動揺し、不安な日々を送っていた。ジーンの父が海上封鎖の勤務についていることがクラスメイトに知れわたり、ジーンはたちまちヒーロー扱いされ、スタン(オムリ・カッツ)や、サンドラ(リサ・ジャクブ)といった友達ができた。一方「MANT」公開の成功にウールジーは期するものがあった。
虚構が現実を侵食する世界で
ある日、街にB級映画監督のウールジーがやってくる。彼は映画を盛り上げるために、劇場に電気ショックを仕掛けたり、上映前にショック保険加入の手続きを行ったりとギミックを仕掛け始める。そんな彼の上映に対する情熱を横に、少年たちの物語、そしてキューバ危機が絡んでいく。
察しの良い方なら、ウールジーがウィリアム・キャッスルを基にしていることに気づくであろう。ギミックの帝王ウィリアム・キャッスルは実際に『ティングラー 背すじに潜む恐怖』で客席に電気ショックを仕掛けたり、『第三の犯罪』では怖くて映画が観られなくなった場合に全額返金をするキャンペーンを行った。『第三の犯罪』では不正を行い映画を2回観る輩を阻止するために、色付きのチケットを用いているのだが、その要素も本作で確認することができる。
ウィリアム・キャッスルのギミックに対する情熱と濃厚なエピソードはそれだけで伝記映画が作れるほど魅力的なのだが、ジョー・ダンテ監督はフィクションに落とし込み、複雑なプロットの中魅力的な物語へと昇華させていく。キューバ危機により、虚構が現実を侵食するような日常となりつつあった。テレビでは不穏なニュースが放送され、スーパーでは買い占めバトルが展開されている。海辺に行くと、兵士たちが作戦準備を行っていて、授業を受けているとけたたましいサインが鳴り始める。
そんな異様な状況下でも、少年たちは青春を謳歌する。アリ映画『MANT』の公開を心待ちにするのである。そして映画が始まるとギミックが作動する。映画が客席を映し、客が振り返りながら語る第四の壁演出が始まるとアリ男のコスプレをした者が劇場内でパフォーマンスをする。しかし、そのアリ男を演じている者が突如喧嘩をおっ始めてしまう。虚構が現実を完全に侵食する異様な光景は、映画を盛り上げる。監督はそれを抑えることはしない。ドンドンと事態が悪化していき、スクリーンが裂かれ、その奥でキノコ雲が豪快に昇ると観客はいよいよパニックとなる。
序盤は、青春ものと冷戦とウィリアム・キャッスルの伝記がどのように繋がるのかが見えてこなかったのだが、虚構が現実を侵食していく様を怖さ/楽しさの天秤にかけるギミックとして作用させ、面白さにつなげていく作品であることが分かってきて、ジョー・ダンテ監督の離れ業に感銘を受けた。こういう自由で芸の細かい作品と出会えた時、私は嬉しくなるのである。