ノートルダム 炎の大聖堂(2022)
原題:Notre-Dame brule
英題:Notre Dame on Fire
監督:ジャン=ジャック・アノー
出演:サミュエル・ラバルト、ジェレミー・ラユルト、エロディー・ナヴァール、Daniel Horn、ピエール・ロタン、アントニーターサン・ジェスターサンetc
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
ジョージア旅行帰りの飛行機で4/7(金)公開の『ノートルダム 炎の大聖堂』を観た。世界遺産に登録されているノートルダム大聖堂は、荘厳なファサードに、ゴシック建築を拡張させた複雑な構造が特徴的でパリを代表とする建造物だ。しかし、2019年に大規模な火災が発生。尖塔が崩落する事態となってしまった。世界遺産検定1級を取った身として、これは観なければと思い今回、鑑賞した。全くあらすじを調べておらず、鑑賞前はドキュメンタリーだと思っていた。しかも、話の焦点が尖塔再建に関するもの。例えば、ゲーム「アサシンクリード」に登場するノートルダム大聖堂が再建に役立つかもしれないみたいな話題をするものだと思っていた。しかし蓋を開けてみれば、ノートルダム大聖堂火災を時系列順に再現する劇映画であった。しかも、監督はジャン=ジャック・アノー。『セブン・イヤーズ・イン・チベット』のゆったりした作りのイメージがあっただけに、ここまで激しくカットを割りながら『タワーリング・インフェルノ』さながらも災害パニックものになっていたことに衝撃を受けた。
『ノートルダム 炎の大聖堂』あらすじ
「愛人 ラマン」「セブン・イヤーズ・イン・チベット」などで知られるフランスの巨匠ジャン=ジャック・アノーが、2019年に起きたノートルダム大聖堂の火災を題材に、消防士たちの命懸けの救出劇を描いたドラマ。
2019年4月15日、パリのノートルダム大聖堂で火災が発生した。警報器が火災を検知するも大聖堂の関係者たちは誤報だと思い込み、その間にも火は燃え広がっていく。消防隊が到着した頃には大聖堂は激しく炎上し、灰色の噴煙が空高く立ち昇っていた。複雑な通路が入り組む大聖堂内での消火活動は難航し、貴重なキリストの聖遺物は厳重な管理が裏目に出て救出に困難を極める。消防士たちはマクロン大統領の許可を得て、最後の望みをかけた突入作戦を決行する。
実際に大規模なセットを炎上させてIMAXカメラで撮影した映像とVFX映像の融合により、圧倒的リアリティで緊張感たっぷりに描き出した。
ノートルダム大聖堂版タワーリング・インフェルノ
世界遺産に物件が登録されると、真正性を保持する必要がある。観光地になることで監視カメラやセンサーを配置する必要性が出てくるが、それを設置するには、外観に影響が出ないように行わなければならない。しかし、現代の技術であれば、観光客がそういった機材の存在を認知することなく歴史を感じることができる。映画は、ノートルダム大聖堂の舞台裏を捉える。センサーが反応する。職員たちは、センサーのメッセージ内容、大聖堂の地図を参考に、問題のある場所を特定して急行する。しかし、問題を発見することができなかった。カメラは、男の背後で煙が立ち上がっている様子を捉える。そして、パリ市民が少し離れた場所から煙を察知し困惑するショットが挿入される。複雑化したノートルダム大聖堂において、意外と問題は岡目八目、内部から分からないものである。パリ市民の反応によって事態が最悪な方向に進んでいることが明らかになる。それを画の連続で表象する。ジャン=ジャック・アノー巧みの演出が冴え渡る。
映画は、本事件の問題点をやや誇張ありで描いている。そのため、思わず「そうはならないだろう」とツッコミを入れたくなる場面も多い。例えば、警備員が「緊急事態です、みなさん落ち着いて出口へ向かってください」と叫び、群衆が出口を目指すシーン。なぜか少女は大聖堂の中へと戻っていく。ぬいぐるみでも忘れたのかな?と思うと、祭壇の蝋燭に火を灯し、ヘアゴムをつけてお祈りを始めるのだ。流石に、それは盛り過ぎだろうと思った。また、パリ市民は消防車の進行を積極的に妨害する。消防車の前に飛び出してきたり、消防車の後ろに捕まって一緒に移動しようとしたりするのだ。
恐らく、パリ市民の自由さを悪意的に描いているのだろう。『ノーバディーズ・ヒーロー』でも描かれた、目の前で大惨事が起きない限りは個人主義で、自分の行動を優先するが、大惨事を前にすると団結するパリの肖像がここでも現れている。実際に、火災がニュースになり始めるとパリ市民は大聖堂を前に祈ったり歌ったり、口を開けて見つめている。この時のみ、事象が共有されるのである。
そして、本作は大惨事のみ共有され、細部ではてんでバラバラな市民が次々と引き起こすヒューマンエラーによる修羅場の連鎖をとことん描いており、それがノートルダム大聖堂の複雑さと絡み合って手汗握るパニックを生み出している。個人的に惹き込まれたのは、消防士が、尖塔を目指す場面。ひとりしか通れない幅の階段を登るも、途中で鍵が掛かった扉が現れる。世界遺産なので破壊もできない。昔ならではの鍵を複数差し込まないと開かず、専用のスタッフでないと解錠できない仕組みとなっている。狭い階段の中、消防士と壁との僅かな隙間を縫って、専門スタッフが扉の前へ移動し開けて去っていく様のリアルさ。事前に情報共有されていないが故の事態の困難さを何とか突破しようとする人間臭さに魅了された。
実話もので、大惨事を描いた作品であるが、パニックアクションとして面白く観た。と同時に単なるパニックアクションとしてではなく、構造やコミュニケーションの問題を炙り出しつつ、起こったものはしょうがないと目の前の問題に取り組む人間の尊さが描かれており、実話ものとしても誠実な映画であったと感じた。
日本公開は4/7(金)。
※映画.comより画像引用