唯一、ゲオルギア(1994)
Seule, Georgie
監督:オタール・イオセリアーニ
評価:60点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
渋谷シアター・イメージフォーラムにて上映されているオタール・イオセリアーニ特集。彼の作品はどれも視聴難易度が高いものが多いのだが、その中でもSSRレベルの作品『唯一、ゲオルギア』を観てきた。本作はオタール・イオセリアーニが内戦で荒れるジョージアを前に、どうしてそうなってしまったかを語る歴史ドキュメンタリーとなっている。彼の運動によるコミカルなアクション芸を期待して観ると肩透かしをくらう作品ではあるが、ジョージア史を4時間で学べる貴重な資料であった。
『唯一、ゲオルギア』概要
「月曜日に乾杯!」「皆さま、ごきげんよう」などで日本でも知られる、ジョージアの映画監督オタール・イオセリアーニ。劇映画のほかにも中・短編のドキュメンタリーも手がけ、1979年以降は祖国を離れてフランスのパリを拠点に活動した同監督が、祖国の歴史と文化を紹介した3部構成の長編ドキュメンタリー。
ソ連が崩壊に向かうことで政治的な混迷を深め、ソ連の構成国だったジョージア(ゲオルギア)では内戦が勃発。祖国がなくなるかもしれないという思いを抱いたイオセリアーニが、映像資料を用いてジョージアの歴史や文化など過去を振り返り、現在を検証した。上映時間は第1部が91分、第2部が69分、第3部が86分、合計およそ4時間に及ぶ。
日本では2023年2月、イオセリアーニの全監督作をデジタルリマスターで上映する「オタール・イオセリアーニ映画祭 ジョージア、そしてパリ」にて劇場初公開。
4時間で振り返るジョージア史
序盤は、建築の側面からジョージアの歴史が語られる。世界遺産であるゲラティ修道院をはじめとする、修道院文化、村の習慣、クヴェヴリワイン醸造の現場を語る。ジョージアの村は完全に個人主義だったらしく、同じ村の中で干渉することは少なかったという話に驚かされる。また、修道院は次々と新しい様式に建て替えられる文化があったという話からは、バグラティ大聖堂が真正性と完全性を損ない世界遺産から削除されたことと関係があるのかなと知的好奇心が掻き立てられる。一方で、バルコニー文化が「文化」として保存されず、観光地用に消費されてしまっているとの指摘には、世界遺産の勉強をしている者として重要な観点だと改めて認識する。
中盤からは、ソ連による侵略の歴史が描かれているのだが、ロシアのウクライナ侵攻に通じるものがあり、独立しようとしても分断を生み出すべく、ジョージア政府にぬるっと入り込み、内戦に持っていこうとするいやらしさを徹底的に突きつけられる。そして何よりも、ソ連に所属することによって「ジョージア」が世界から認識されず、文化がソ連の所有物になってしまう状況への憤りは、ボルシチがロシア料理として扱われた際にウクライナ人が感じるものに通じる。ジョージアに行ってみたくなった上に、ジョージア史への理解が深まった一本であった。
※映画.comより画像引用