【オタール・イオセリアーニ特集】『月の寵児たち』押すなよ、絶対に押すなよ

月の寵児たち(1985)
Les favoris de la lune

監督:オタール・イオセリアーニ
出演:マチュー・アマルリック、Katja Rupé、Alix de Montaigu、François Michel etc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2023年上半期のビッグイベントとしてオタール・イオセリアーニ全作品特集がある。本特集には、私が10年間探し求めていた『そして光ありき』もあり泣きながら、CINEMAS+さんに紹介記事を書いた。さて、この特集の中に『月の寵児たち』がある。本作はヴェネツィア国際映画祭で審査員賞を受賞した作品でありながら、海外ルートですら鑑賞が困難であり、15万円近くするフランスのDVD-BOXを買わなければ観られない代物。初日にヒューマントラストシネマ有楽町で観てきたのだが、これが良かった。

『月の寵児たち』あらすじ

「月曜日に乾杯!」「皆さま、ごきげんよう」などで知られる旧ソ連ジョージア出身の名匠オタール・イオセリアーニが、1984年に手がけた長編第4作。祖国で作品の上映中止や公開禁止の処分を受けてきたイオセリアーニが、1979年に活動の拠点をフランスのパリに移してから初めての長編作品。

18世紀末の絵皿と貴婦人の裸婦画をめぐる群像劇で、パリで画廊を営む女性とその愛人、鉄砲店の店主、美容師、警視、空き巣の父子、過激派の音楽教師、娼婦、暗殺者のアラブ人、ホームレスなど、さまざまな登場人物が繰り広げる行動を、主役・脇役を関係なく重層的に、どこかとぼけた味わいを交えて描いた。

ハリウッドでも活躍するフランスの名優マチュー・アマルリックの映画デビュー作であり、アマルリックは空き巣の息子役を演じている。1984年・第41回ベネチア映画祭で審査員特別賞を受賞。日本では2023年2月、「オタール・イオセリアーニ映画祭 ジョージア、そしてパリ」にて劇場初公開。

映画.comより引用

押すなよ、絶対に押すなよ

ペットによってガシャんと皿が割れる。しかし、次の場面では皿がろくろから作られる様子が描かれる。これはこの映画のテーマになっており、皿と絵画が破損していく状況を軸として、様々な登場人物の物語が奇妙に交差していく。その交差は後の『群盗、第七章』における時空間を超えたものへと繋がっていると言えよう。オタール・イオセリアーニ映画は、運動の面白さと編集によって生まれる虚構性に力点が置かれており、『月の寵児たち』ではその切れ味が抜群なものとなっている。例えば、テロリストに爆弾を売る場面。動作検証のため、男が爆弾を持って移動している。待機している者たちの手にボタンがある。「押すなよ、絶対に押すなよ」とダチョウ倶楽部みたいなフラグを立てる。案の定、ボタンは押され、男は木っ端微塵になる。実験成功ということで商談は成立する。分かっているが思わず笑えてしまうユーモアがそこに満ちている。また、強盗のドラマが進行している横で、ゴミ収集車の男の何気ない一日が展開されるのだが、それが思わぬ形で交わる場面がある。寓話的だが、一方でこの世には様々な人の人生があって、それが奇妙に交わってしまう。それも何気なく、突然にといったものを感じ、リアルに思えたりする。それはたまたま、子どもが仕掛けた悪戯が強盗に影響を与える場面もしかりである。

また、絵画がどんどん小さくなって、継承されていく様子からはロマンを抱く。美術館に飾ってあるような絵画や彫刻は、何年も時を超えて、その形を維持しながらその場にいるのだと。オタール・イオセリアーニの滑稽な人間と歴史の喜劇に心を掴まれたのであった。

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※映画.comより画像引用