『メイド・イン・バングラデシュ』この世は「見えない化」された者の血と涙でできている。

メイド・イン・バングラデシュ()

監督:ルバイヤット・ホセイン
出演:リキタ・ナンディニ・シム、ノベラ・ラフマン、パルビン・パル、ディパニタ・マーティンetc

評価:80点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

金の糸』を岩波ホールで観た際に、予告編でバングラデシュ映画公開の情報を知った。予告編を観ると興味深いものを感じたので行ってきました。ウイグル地区を始め、先進国の巨大企業は、一見クリーンな労働環境を装いつつも資本主義に従い、価格の安い国へ外注する。そして「見えない化」を図っている。『メイド・イン・バングラデシュ』はファストファッションの犠牲となるバングラデシュの実態を、実話に基づき緻密に描いた作品となっている。これが、非常によくできた作品であった。

『メイド・イン・バングラデシュ』あらすじ

世界の繊維産業を支えるバングラデシュを舞台に、衣料品工場の過酷な労働環境と低賃金に立ち向かう女性たちの姿を描いたヒューマンドラマ。大手アパレルブランドの工場が集まるバングラデシュの首都ダッカ。衣料品の工場で働く女性シムは、厳しい労働環境に苦しむ同僚たちと労働組合を結成するべく立ち上がる。工場幹部による脅しや周囲の人々からの反対に遭いながらも、自ら労働法を学び奮闘するシムだったが……。10代半ばからバングラデシュの労働闘争に関わってきたダリヤ・アクター・ドリの実話をもとに、気鋭の監督ルバイヤット・ホセインがメガホンをとった。「アンジェリカの微笑み」などで知られる撮影監督サビーヌ・ランスランによる美しい映像にも注目。

映画.comより引用

この世は「見えない化」された者の血と涙でできている。

ミシンがカタカタ鳴り響く。女性たちはひたすら糸を紡いで服を一日1500着以上作っていく。工場は真っ暗となる。赤い警報が不気味に光る。労働者は狭い通路をかき分け脱出する。不穏な煙が工場を包み込んだ。マノエル・ド・オリヴェイラ映画の右腕撮影監督サビーヌ・ランスランの印象的なズームが、「劇映画」のフォルムでバングラデシュの凄惨さを物語ろうとする意志を宿す。

工場が再開するも、納期のために残業が発生する。しかし、残業代は出ない。怒りに燃えるシム(リキタ・ナンディニ・シム)はインタビューを受けたことにより、労働組合の存在を知る。こんなどうしようもない生活は問題だと、彼女は法律を学び、労働組合を作ろうとする。だが、日夜過酷な労働を行い疲れ切っている者にとってそれは辛いものがある。束の間の休み、映画を観たりして憂さ晴らしする時間を堅くてリスクのある労働組合作りに費やすことはより消耗することだ。よってシムは孤独に戦うこととなる。舗装されおらず、水たまりができている空間の中から石をひとつひとつ踏んで道を渡っていくところに、シムの過酷な道中の予感を抱かせる。

本作がよくできているのは、シムの葛藤だけに留まらないところである。例えば、彼女が労働組合を作ろうとすることに不快感を示す同僚が出てくる。昼休みに、彼女の近くでネチネチ小言を語るのだ。よくよく話を聞くと、この女性は独身女性でありバングラデシュ社会においてヒエラルキーが既婚者よりも低くコンプレックスを抱いていることが分かる。だが、既婚者であるシムも、男社会の中で苦しんでいるのだ。

残業代を出さないマネージャーも大変だ。組織の歯車として機能しているため、上からも命令には従わなければならない。そして、海外から視察にきたビジネスマンに「お前のところは高すぎる。安くしろ。」と言われ、従わざる得ないのだ、拒否したら、工場が閉鎖となり多くの人が失業するかもしれないのだ。これがグロテスクであり、彼女たちが1日約2,000着作っても、彼女たちの給料は服2着レベルにも満たないのだ。

そして、やがて資本主義により歪んだシステムは、国レベルに至ることが分かってくる。労働組合を作ろうと書類を集めても、複雑すぎる制度によって嵌められ、受理しないように仕向けられているのだ。情に訴えても、社会の歯車になってしまっている者はそれから逸脱する行動を取れないのだ。

合理化の悪用により、世界規模で市民が嵌められていく。それを変えられるのは実力行使だけなのか?

この世は「見えない化」された者の血と涙でできていると訴える本作に、中間管理職、社会の歯車として生きる私は胸を締め付けられたのであった。

※映画.comより画像引用