地球外少年少女(2022)
監督:磯光雄
出演:藤原夏海、和氣あず未、小野賢章、赤﨑千夏、小林由美子、伊瀬茉莉也etc
評価:85点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
『電脳コイル』の磯光雄新作『地球外少年少女』がNETFLIXで配信された。予告編を観ると、アメリカのSFパニックを彷彿とさせる作品のようで気になったので観てみた。正直、後半の失速感や子供が主人公だけに、洋画なら一歩先は死の世界になっているような内容が五歩までは問題ない安全仕様となっており惜しい作品ではあった。しかし、本作におけるインフルエンサーキャラクター・美笹美衣奈の描写がすこぶる面白かったので掘り下げていく。
『地球外少年少女』あらすじ
時は2045年。事故によって宇宙ステーションに取り残されてしまった子供たち。月生まれの2人と地球からやってきた3人が、絶体絶命の危機に立ち向かってゆく。
インフルエンサーのタナトス
2010年代以降、youtuberが職業として社会的地位を獲得した。自分の好きなことを発信して、名声と富を得る。俗な職に見えるが、これは映画が持つ覗き見の心理と地続きとなっている。動画配信者は決定的瞬間を捉えることを重要としている。多くの人が、やりたくてもできないことを、金、人脈、資源をとことん投入して魅せるのだ。配信者はフォロワーやPVといった形でリアルタイムに可視化される数値に一喜一憂する。そして、より多くのフォロワーやPVを稼ごうとする。ではフォロワーやPVをいち早く魅せるためにはどうすれば良いのだろうか?それは死に近づくことである。すしらーめん《りく》の爆破動画がなぜ面白いのか、それは至近距離で爆発が起こるからだ。しかし、動画がアップされている以上、彼は死んでいない。安全された死の瞬間が提示される。普段観ることのできない決定的瞬間が観賞者の興味を刺激するのである。
閑話休題、『地球外少年少女』の美笹美衣奈に注目しよう。彼女はインフルエンサーであり、常に動画配信している。宇宙船という非日常を提示することでフォロワーを獲得しようとしている。そんな中、彗星が宇宙船にぶつかりそうになる。彼女は「死んだらフォロワー増えるかもね」と軽妙な口調で語る。それは、自分は死なないと思っているからだ。大人やAIに守られているから、この状況は「安全が保証された死」と認知している。しかし、事態が悪化し、エレベーターに取り残されたことで本当の死と対峙する。
弟は泣き始め、世話役の那沙・ヒューストンは倒れている。AIロボットは停止しかけており、エレベーターは凍りかけている。インターネットは繋がらない。ここで初めて自分は死ぬかもと思うのだ。「安全だって言ってたじゃん」というセリフからも分かるとおり、彼女はフォロワー稼ぎのために安全が保障された死を追い求めていたのだ。
通常、この手の映画では彼女のようなキャラクターは早々に死ぬだろう。または、改心するだろう。しかし、本作は生かさず殺さず、スクリューボールコメディのヒロインがごとく図太く映画の中心にいようとするのだ。これは人間の習慣や性格は1日やそこらで180度変わるものではないことに真摯である。彼女は、少しでも安全圏にいれば、配信を再開し、例え密室に閉じ込められ、親から電話がかかってきても「安全が保証された死」を信じてパフォーマンスをし続けるのである。その光景はどこか、火災寸前になりながらも家の中でバーベキューをしたり、燃えているガス缶を映し続ける動画を参考にしたような生々しさがある。
また本作は、かつて国家が宇宙を目指したのに対し、大企業が宇宙を目指す時代を描いている。彼女が配信で映すサバイバル映像には、オニクロ(ユニクロみたいな存在)のロゴが貼ってある宇宙服がチラつく。子どもたちが絶体絶命の危機にあるのに、大企業のコマーシャルになってしまうグロテスクさがあるのだ。
このようにインフルエンサーの視点で観ると発見が多いアニメシリーズであった。
※NETFLIXより画像引用