『セミマゲドン』蝉と青春の旅立ち

セミマゲドン(2018)
CICADA!

監督:デヴィッド・ウィリス
出演:デビッド・アギレラ、ネイサン・アレクサンダー、Andrew Amicangelo、Nicole Anthony、Jessica Arbogast etc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2021年も残り半分。あっという間に2022年になってしまいますね。さて、皆さんの今年ベスト邦題はなんでしょうか?最近は『スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話』、『元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件』といった邦題があらすじとなっているケースもチラホラあり少し悲しく思っています。それでも『荒野の千鳥足』といった時たま鋭い、思わず口にしたくなる邦題と遭遇し嬉しくなるものです。

さて、声を出してこの邦題を言ってみましょう。

セミマゲドン!!

サメや恐竜の謎映画を積極的に円盤化するコンマビジョン渾身の新作『セミマゲドン』が残暑見舞いのごとく日本へ襲来しました。原題はCICADA、「蝉」である。この邦題センスに惹かれ、DVDを買いました。ということで早速、完走した感想を書いていこうと思います。

『セミマゲドン』あらすじ

元メジャーリーガーだが今や落ちぶれる一方のジョニーは鬱屈した日々を過ごしていた。

そんなある日、突然変異によって巨大化した殺人ゼミの大群がロサンゼルスを襲撃、平和な街は大パニックに陥ってしまう。
生まれ故郷を守る為、ジョニーとその仲間たちは米軍ですら歯が立たない最強セミ軍団の退治に乗り出す事に。

人類とセミの最終戦争《セミマゲドン》が今始まる!

※Amazonより引用

蝉と青春の旅立ち

この手の映画は、狙いつつも颯爽とゴダールもびっくりな映画の本質を捉えた演出を繰り出す子ども映画に対して、思わぬ角度からユニークな演出を仕掛けてくる。それが面白かったりする。例えば、『デビルシャーク』はサメを映さずにいかにモンスターパニックを盛り上げられるかという点で『スティーブ・マックィーンの人喰いアメーバの恐怖』に近い面白さがある。『恐怖!キノコ男』では執拗なカメラの切り返しによって、独特なリズムが生まれて魅力的だ。

さて、『セミマゲドン』はどうか?

野球少年がコーチと修行に励んでいる。

このシーンでいきなりイマジナリーラインを越えてきます。

コーチのショットと野球少年のショットが交互に映し出されているのだが、二人の目が合っていないようにしか見えないのです。これにより、二人の心の距離が開いていることを象徴しているように感じます。故に、野球少年がホームランを打ち、意気揚々とグラウンドを1周している間にコーチがセミに殺される場面に切なさが生まれます。ようやくコーチと心を通わすことができたと思ったら、彼は骸になってしまっているのだから。

そして、映画は本題に入る。

ニコラス・ケイジのそっくりさんとリック・モラリスのそっくりさんと、ダニー・トレホのそっくりさんとヒロインが巨大セミパニックの道中を逃げ回る。それだけの話なのに、主人公たちがポンコツ過ぎて思わぬところでサスペンスが生まれる。

例えば、車に乗る際に、鍵を投げたら車の下に落としてしまい、取ろうとする。通常の映画であれば、排水溝や妙な穴に鍵が落ちる傾向があるのですが、本作では車の下に落ちて、それをのっさりとした動作で取ろうとするのだ。

全ての挙動が鈍重であり、口にアルコールを含んで、ライターを使い、ヘルファイアをセミに繰り出す場面が存在するが、セミは死を待ち望んでいるかのように辛抱強く人間の準備ができるのを待ってくれるのです。

今やトミー・ウィゾーだけでなく、youtuberも気軽に使えるようになったクロマキーを用いたCG合成。それを思う存分使用し、様々な死際をショートコントテイストで並べていく。スケボーをしながら、花を売りながら、銃を撃ってみたがセミに喰われる。そんな回転寿司に思わずニヤリとさせられます。

俳優たちの演技もどこか楽しそうで、どこか映画製作におけるユートピアを観ているようです。

緊張の夏、セミマゲドンの夏!

夏休みも折り返しに入り、切なくなる今にぴったりな作品でした。

※imdbより画像引用