【マイケル・スノウ特集】『<--->』↑↑↓↓←→←→ba

<—>(1969)
Back and Forth

監督:マイケル・スノウ

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

今、巷ではファスト映画というものが問題となっている。映画を無断で切り貼りし、10分程度でオチまで紹介する動画がyoutubeにアップされているらしく、映画業界に多大な損害を与えているのだとか。現代人は、膨大な情報の海に溺れつつあり、趣味ですら次から次へと入っていく情報を、仕事や学校の合間の可処分時間で取り入れて自分の中で消化していくことが困難となっている。ビデオやインターネット動画が登場した時から、時短で映画と触れる行為は存在していたが、SNSの台頭によって明るみになっていった。映画のオフ会に行くと、年間1000本観ているとイキっている人がいるが、話を聞けば1.5倍速にして観ていたり、複数画面で観ていたりして若いなと思い距離を取るようにしている(自分も中学時代午後のロードショー映画を早送りで観ていた時期があり、叩くことはできません。無論、今はしませんが)。

閑話休題、そんな時間のない現代人が趣味ですら駆け足で触れていく様子を風刺したような映画ないかなと探していたら、マイケル・スノウに出会いました。マイケル・スノウといえば「死ぬまでに観たい映画1001本」に掲載されている謎映画『波長』で有名な実験監督である。彼がファスト映画的なものを撮っていたのだ。45分の『波長』を15分に圧縮した『WVLNT』はなんと副題に”Wavelength For Those Who Don’t Have the Time(時間のない方の為の『波長』)”とつけている。そしてそれを応用させ、90秒に圧縮したミニドラマを10回以上反復させた『SSHTOORRTY』を製作していた。『波長』を観た時は、訳が分からないが面白い監督というイメージしかなかったのですが、輪郭を捉えると鋭い監督であることが分かる。というわけで、マイケル・スノウ研究を少ししてみようと思う。早速、『<—>』を観てみました。

『<—>』概要

A camera in a classroom continuously sways back and forth at various speeds as people occasionally move around the setting.
訳:教室に設置されたカメラが様々な速度で前後に揺れ続け、その中を人々が時折動き回る。

※IMDbより引用

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特殊な回転装置に備え付けられたカメラが右に左に回転する。その切り返しの音が段々と遅くなったり早くなったりする。この波のような動きと、それに伴う音の振動が心地良さを観る者に与える。

ただガランとした教室を撮っているだけではない。カメラが右に振ると、左にいた人が死角となり見えなくなる。今度は左にカメラが振れると、人がいなくなっている。再び右に振れると、窓から人が現れ同じ方向へ移動する。このカメラの連動と人の動きの差によるアクションは映画を観る時に感じるゾクッとした手触りを思い出させてくれる。『波長』もそうだが、ミニマムながらも戦略的動きをマイケル・スノウは取り入れているのである。

そして、いつしか群衆が教室にひしめき合う。中央付近で、小競り合いが行われているが、カメラはドライに左右へ振動するだけだ。これにより死角が生まれるので、フレームの外側への注目を生み出すことに成功している。このカメラの移動で死角を作り出し、そこに観客の覗き見への関心を促す手法は、最近ジョージア映画『Beginning』で観たばかりだったのでカメラ移動と死角の関係性の理解が深まった。

後半になると、カメラは上下運動したり、複数の往来を重ね合わせることで、不思議な快感が生まれてくる。ハンモックに揺られているような快感である。

実験映画特有のミニマムさからくる快感と、スリリングで複雑な戦略。『すずしい木陰』が好きな人はきっとハマることでしょう。

※MUBIより画像引用

 

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