TWO/ONE(2019)
監督:Juan Cabral
出演:Boyd Holbrook, Yang Song, Zhu Zhu etc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
やはりコロナの影響か、ストックが底を尽きたのか2021年に入ってまだ映画館に行けてない。行けてないというよりかは観たい映画がないのだ。なので、私はMUBIで済藤鉄腸さんやKnights of Odessaさんですら観ていないような謎の映画掘りに力を入れている。『TWO/ONE』という謎の映画を見つけた。予告編を観ると、恍惚としたオシャレ映画に見える。カナダのスキージャンパーと中国のソープオペラが絡む話らしい。話自体は陳腐で退屈そうなのだが、第六感が「傑作ダヨ」と囁いていたので観てみました。こういう勘というのは大抵当たるものである。尚、終盤のある展開について語っているネタバレ記事なので要注意。
『TWO/ONE』あらすじ
Kaden is a world-class ski jumper in Canada, pining for a lost love. Khai is a corporate executive in Shanghai, drawn to a new coworker with a secret. The two men go about their lives, without knowing that they are connected.
訳:カナダで世界的なスキージャンパーとして活躍するケイデンは、失恋に憧れる。上海で会社の重役をしているカイは、ある秘密を抱えた新しい同僚に惹かれていく。繋がっていることを知らずに、二人はそれぞれの人生を歩んでいく。
※MUBIより引用
排他制御がかかった男たち
アルゼンチン出身のJuan Cabralは広告マンである。彼はイケヤやアップル、ロレックスの広告を手がけており、彼が制作したCadburyのCM「Gorilla」は世界三大広告祭の一つカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルでグランプリを受賞し、アド・エイジ誌の「Ad of the Decade」にも選ばれています。アンニュイなゴリラのクローズアップから始まり、観るものを惹きつけに惹きつけて繰り出されるドラムの高揚感は凄まじいものがあります。そんなJuan Cabralの長編デビュー作『TWO/ONE』は、映画畑の人からは出てきそうで出てこないコロンブスの卵を魅せつけてくる作品だ。中国の電車の中でヘッドホンをつけた男が、夢現つと瞼を開いては閉じたりしている。彼が完全に瞼を閉じると、舞台は変わってベッドで横になる男が映し出される。彼はふと目を覚まし、水を飲み、再びベッドに飛び込むと、中国の男の瞼が開く。この映画は中国人とカナダ人との間で排他制御がかかっており、どちらか一人が目を覚ましていると片方は寝てしまう文法に従って物語が紡がれるようだ。その厳格さは異様なもので、カナダ人Kaden(Boyd Holbrook)が練習でジャンプ台から飛び込み、瞼を一瞬閉じただけで中国人Khai(Yang Song)の物語が侵蝕する徹底ぶりである。
広告マンが考えた映画故に、出オチ映画なのは明らかである。並べられる二つの話はソープドラマ、昼ドラのような陳腐で通俗なもので、Kadenの物語はスキージャンプ・ワールドカップ札幌大会を控えた彼が、スランプやプレッシャー、家族関係に悶々しながら大会を目指すというもの。Khaiの物語は、アダルトサイトで見かけた気になる女の子が同じオフィスに働いていることに気づいた彼が情事に励むといった物語。どちらも、単体の映画として観た際に新鮮さがないのですが、これが「排他制御」という異様な映画文法によって独特な面白さを映画全域に染み込ませていく。
察しの良い観客ならこう疑問を抱くだろう。
「この二人が同じ空間にいたらどうなるんだろう?」
その期待に監督は答えてくれます。
札幌を目指すKadenは天候不良の為、韓国の空港で足止めとなる。彼が寝ているところに出張中のKhaiが現れる。彼は、どこかで見覚えのある顔だなと彼の元に近づくと、Kadenの電話が鳴り起きる。その途端、Khaiは目の前で気絶してしまうのだ。「おい!起きろ!」と彼がKhaiを叩くと、今度はKadenが気絶してしまうのだ。映画の文法は何故か、この男たちのルールとして適用されてしまうのです。
どちらか一人しか起きられない世界。そのせいでKadenは大会に間に合わなく鳴りそうな修羅場となる。
ハルカトミユキ「夜明けの月」の
太陽になれないそんな僕だけど
君の足元を照らす月になろう
さみしい夜とんでいくよ
君がもう独りで泣かないように
というフレーズがKhaiとKadenの関係性、感情の高まりを象徴するように流れ、Kadenは衝撃的な試合を迎えることとなる。
中盤の中だるみこそあれども、退屈な二つのドラマを排他制御という独自文法でキメラ的作品に昇華させてしまうJuan Cabralのテクニックに興奮しました。
※MUBIより画像引用
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