ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破(2009)
EVANGELION:2.0 YOU CAN (NOT) ADVANCE.
監督:摩砂雪、鶴巻和哉※総監督は庵野秀明
出演:緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子、坂本真綾etc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
さて、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』である。本作では、テレビ版には登場しなかった真希波・マリ・イラストリアスが登場し、「序」が再構築な作品だったのに対して本作は『アスカ、来日』から『男の戰い』までを脱構築してみせた作品と捉えることができるであろう。と言うわけで感想を書いていく。尚、結末まで書いているネタバレ記事なので注意。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』あらすじ
社会現象を巻き起こしたTVアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」を新たに描き直す劇場版4部作の第2部。汎用ヒト型決戦兵器エヴァンゲリオンに乗り、自ら戦うことを選んだ14歳の少年、碇シンジ。そんな彼のもとに、新たにエヴァ2号機とそのパイロット、式波・アスカ・ラングレーらが加わり、謎の敵“使徒”との戦いは激化していく……。TV版に登場しなかった新キャラ、真希波・マリ・イラストリアスや新メカのエヴァンゲリオン仮設5号機なども登場。
※映画.comより引用
開き直き程凶悪な力はない
ブリタニカ国際大百科事典によればデリダが提唱する脱構築の定義は「哲学者の通った道をそのままたどり,そのやり口を理解し,その詭計 (きけい) を借り,その持ち札で勝負し,思うがままに策略を繰り広げさせておいて,実はテクストを横領してしまう」とのこと。テレビ版を再構築した『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』は庵野秀明の作戦の下地となっており、本作において少し牙を剥く。惣流・アスカ・ラングレーが縦横無尽に動き回り、使徒をなぎ倒していくオリジナルのアクションシーンから始まる本作は、いきなり観客を世界観へと没入させる。テレビ版を観ていた人も、前作のレールに敷かれたドラマに対する飽きから解き放たれて一安心だろう。エヴァに乗るアスカ視点と、戦場を逃げ惑うシンジ視点を交互に描くことで、エヴァの巨大さを強調するアクションはロボットアニメの醍醐味を堪能させてくれる。
しかしながら、やはり物語は駆け足のテレビ版という印象を受ける。そこに落胆すると、要所要所に違和感が出てくる。例えば、アスカとの友情の深まりを示す重要なシーンとして、シンクロしながら使徒を倒す回があるのだが、それはカットされている。その代わりに、弁当コミュニケーションという小さなエピソードで丸められている。突然『犬神家の一族』オマージュをすることで有名なあのエピソード、恐らく庵野秀明が一番好きであったであろうシーンを削除しているのだ。まるでエヴァンゲリオンの呪いから自分が逃れたいかのように見える。さらには、ホン・サンス映画のように情けない男に対して強い女性という構図が強調されている。綾波レイが何度も「私がシンジ君のこと守ってあげるから」と言うのだ。シンジとしては父親に認められたいという欲望の下で奮闘しているのだが、女性に守られている。そのコンプレックスが、前作から積み上がっていくフラストレーションを更に増幅させていくのです。
周囲の期待に応えられず、周りの女性が無残な姿にあっていく姿に耐えきれなくなったシンジは開き直る。開き直った者程強い者はいない。命令を無視し始めるのです。怒られることになれた彼は、イジケテいる。イジけた彼が暴力を行使するとき、それは最悪の結末を迎える。レイを救うことだけが目的となり、使徒に突撃した彼がサードインパクトの引き金を引いてしまうのです。
新海誠が『君の名は。』『天気の子』でセカイ系というジャンルを布教させたが、実は庵野秀明は既にセカイ系マスターとなっていた。テレビ版以上に、シンジが自己と他者の折り合いがつけられずに、自己に閉じこもり世界の崩壊を導くトリガーとなってしまう過程が生々しく描かれているといえる。かといって、シンジは悪人かと言われたらそうではない。寧ろ社会の圧力によって、自己が崩壊し暴力が滲み出てしまう様子に寄り添っているのだ。そして、Qでは史上最凶の「オイディプス王」をやってのけるので、なんて恐ろしい映画なんだと思う。
庵野秀明がかつて自分の作り出した哲学世界を自由自在に再構成した結果、新境地に達しようとする脱構築っぷりに驚かされた一本でした。
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※映画.comより画像引用
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