空に住む(2020)
監督:青山真治
出演:多部未華子、岸井ゆきの、美村里江(ミムラ)、岩田剛典、髙橋洋etc
評価:50点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
LDHは映画ビジネスとして攻めており、河瀨直美とタッグを組んだりしているが、今回は青山真治がターゲットだ。LDHファンからすると岩田剛典映画に見えるだろう。実際に、本作は終盤に差し掛かるとLDHサウンドが映画を覆い始めます。また多部未華子ファンにとっては『私の家政夫ナギサさん』の番外編として本作を観たくなるであろう。既にこの時点で正反対のベクトルを向いているため、案の定不協和音を引き起こすのだが、そこへ青山真治テイストという黒沢清以上に映画論から来る奇怪な演出が加わり混沌闇鍋となっていた。そんな怪作『空に住む』についてネタバレありで考察していきます。
『空に住む』あらすじ
「EUREKA ユリイカ」の青山真治監督が7年ぶりに長編映画のメガホンをとり、多部未華子と初タッグを組んだ人間ドラマ。作詞家・小竹正人の同名小説と、原作とともに誕生した「三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE」の楽曲「空に住む Living in your sky」の世界観を基に、現実と夢の間で葛藤しながらも新たな人生を見いだしていく女性たちを描く。郊外の小さな出版社に勤める直実は、両親の急死を受け止めきれないまま、叔父夫婦の計らいでタワーマンションの高層階で暮らし始める。長年の相棒である黒猫ハルや、気心の知れた職場の仲間に囲まれながらも、喪失感を抱え浮遊するように生きる毎日。そんなある日、彼女は同じマンションに住む人気俳優・時戸森則と出会う。彼との夢のような逢瀬に溺れていく直実は、仕事と人生、そして愛の狭間で揺れ動き、葛藤の末にある決断を下す。直実の後輩・愛子を「愛がなんだ」の岸井ゆきの、直実の叔母・明日子を「彼らが本気で編むときは、」の美村里江、人気俳優・時戸を「EXILE」「三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE」の岩田剛典がそれぞれ演じる。
※映画.comより引用
エドガー・G・ウルマー『黒猫』のアップデート
両親が急死し直実(多部未華子)は伯父さんの計らいで高級タワーマンション39階に引っ越してきた。黒猫と共に。しかし、薄暗い空間で彼女はその空間の違和感を身体に取り込むことができないでいた。この異様な世界観。『死ぬまでに観たい映画1001本』フルマラソン参加者はピンと来るであろう。青山真治はエドガー・G・ウルマー『黒猫』をやろうとしていることに。エドガー・G・ウルマー『黒猫』では黒猫とモダンな建築に不気味さを付与し、空間による恐怖を演出しようとしていた。しかし、21世紀においてあの建築を観ても美しさにしか気づけない。では21世紀においてモダンな空間は何を意味するのだろうか?それは虚無、孤独ではないだろうか?と考察する。本作において39階の部屋は、整然としていて落ち着かない空間。人々は憧れるが、手にすると内なる孤独が増幅される場となることを青山真治は田舎の雑然とした出版社との対比で紡ぎ出しているのだ。そして、黒猫に死の香りを宿わせるのはそのままに、岩田剛典との夜の営みを儀式的に描くところ等踏まえ『黒猫』の現代アップデートとして銀幕に焼き付ける。だが、『黒猫』を知らなければわかるわけがない為、奇怪な闇鍋に見えるのだ。飲み込みづらい直実と愛子(岸井ゆきの)の行動原理に困惑する映画となっているのだ。
それでも演出を注意深く見ると、多少面白さが見えてくる。
例えば、エレベーター描写だ。直実は窓から下界を見下ろすと、「Wild is the wind」という広告に目がいく。そのモデル時戸森則(岩田剛典)が気になってしまう彼女。その願望を叶えるように、下界から彼がやって来る。エレベーターに乗って。エレベーターで鉢合わせる二人。彼女は下に行こうとしてうっかり上行きのエレベーターに乗り彼と出会うのだが、彼は彼女を追うように、エレベーターを降りずに彼女と一緒に降り始める。そして彼は下から上から彼女を挟み撃ちにしていく。明らかに危ない男であるのだが、彼との魔性のディスカッションによって、自分を偽って生きていることに気づかされていくのだ。孤独を癒してくれる魔性の存在・時戸森則、その横で黒猫ハルが寂しそうにしている。不吉な香りを滲ませていくところに、雲として空に住んでおり傍観者であった自分が新しい生き様を洗濯しようとする際の不安というものが表れていると言える。
そして、そんな彼女の心情を裏付けるように愛子の存在がチラつく。愛子は明らかに長く続かない男と結ばれ、子どもを宿している。周囲からは「大変なのはこれからだ」と言われているが、フワフワしている。彼女に言わせれば、「難しいこと考えたら幸せ逃げちゃうよ」とのこと。一見正反対に見える二人だが、向かっている方向は同じだ。新しい生活の先にある大変な道を見ないようにしているのだ。また、直実は両親の死という過去を見ないようにし、愛子は出産後の生活を見ないようにしている正反対な方向を向きつつ、「見ないようにする」という根幹部分で繋がっていることを強調する。それだけに、階段半ばで破水し、狼狽する愛子に、直実が怒る場面に説得力がある。彼女の怒りは、見ないようにしてきて違和感を消化できないでいた自分に対する怒りでもある。そして次々と表れては消える来訪者に対するストレスで亡くなった黒猫ハルという生贄を通じて、性格がガラリと変わる彼女は蛹から蝶になる瞬間を捉えていると言えよう。
とはいえ、10年ぐらい前の私が観たらよくわからなかったと思う。黒猫ハルの死はあまりに不気味で、多部未華子のアンニュイライフ映画と思わせていきなり黒沢清的ホラーへと豹変する異常な作品と言える。ひょっとしたら、その怖さこそ2020年の『黒猫』なのではないだろうか。
そうです『空に住む』はエドガー・G・ウルマー『黒猫』のリメイクなのです。
P.S.それにしても多部未華子にドカ食いする岸井ゆきのに対して「ボディースナッチャーじゃん」と絶対に彼女が言わなそうなセリフを語らせるのが狂っていたな。
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