恋に踊る(1940)
DANCE GIRL DANCE
監督:ドロシー・アーズナー
出演:モーリン・オハラ、ルシル・ボール、ルイス・ヘイワードetc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
先日、映画呑みで『死ぬまでに観たい映画1001本』に掲載されるべき作品はどういったものなのか?というテーマで議論した。私は、その作品が映画界にどれほどの影響を与えたのかという尺度が重要だとみたのだが、バックグラウンドありきで内容が数十年後の世界で通用しなければそれは掲載に値しないのではないか?という意見が出てきて中々面白かった。確かに、人種差別的問題はあれども『國民の創生』は映像的魅力と歴史的バックグラウンドを持っているからこれは掲載されるにあたるだろうと思った。その翌日に観た『恋に踊る』がまさにその問題を突きつける作品であった。アテネフランセでは2020/8/28~2020/8/29に上映される本作は、1930年代にハリウッドで活動した唯一の女性監督ドロシー・アーズナーの作品であり、彼女の意図とは裏腹にフェミニスト映画として解釈されている。ただ、その要素を抜きにするとあまりに下品な作りに唖然とさせられるそうで、実際にFilmarksでの評価は低い。それを踏まえて本作について書いていこうと思う。なお、結末に触れているのでご了承ください。
『恋に踊る』あらすじ
マダム・リディア率いる一座で、中心的なダンサーをつとめる、生真面目なジュディと官能的なバブルス。対照的な二人が、ある日ナイトクラブで出会った色男ジミーに恋に落ちる。彼の心を掴むため互いを出し抜こうとするが、ジミーは元妻のエリノアをまだ愛していた。モーリン・オハラとルシル・ボールの魅力が詰まった、アーズナーの代表作。
※アテネフランセサイトより引用
ショーで復讐する女
ドロシー・アーズナーは1987年カリフォルニア州サンフランシスコ生まれ。父の経営するハリウッドのレストランでウエイトレスをし、映画関係者と接するうちに映画業界を志すようになる。後にパラマウント映画となるフェイマス・プレイヤーズ=ラスキーの脚本部秘書からキャリアを始め、ウィリアム・C・デミルのもとで修行を積む。そして『血と砂』の編集で注目され、『幌馬車』の編集を任せられる。パラマウントから与えられた『近代女風俗』もプロジェクトも興行/批評双方で成功を収め、遂に映画監督として力を振るうこととなった。彼女は女性同士の関係を描くことが多く、フェミニズム研究の題材に扱われることもあるのだとか。
さて、『恋に踊る』の話に戻ろう。本作は、昨今の日本映画界で用いられている《百合映画》という言葉が持つ社会派としての要素、単なる女性同士の友情の視点、そして性的消費の3つのベクトルを併せ持った作品のように思える。私がもし、《百合映画》で執筆を依頼されたら本作について描くだろう。確かに、本作は今の感覚で観ると、あまりに下品で、女性を性的消費の対象としてあからさまに描く様子に拒絶反応が出るでしょう。
常に、露出しており、私生活描写でも女性が自らの生足や妖艶なボディで挑発しあう。バーレスクショーの場面では強風で持って女性の服を脱がす演出が入る。そして、ヒロインが想いを寄せる色男ジミーは、クズで元妻に未だに想いを寄せているにもかかわらずジュディやバブルスに心が右往左往する。女性を消費の対象としているように見えてしまうのだ。また、序盤でヒロインの師匠が交通事故で死ぬ描写があるのだが、そのシーンがギョッとするようなアクションで描かれる。1930年代のハリウッド映画界は、世界恐慌の憂さを晴らすために豪華絢爛ハッピーエンドなミュージカルが大流行していたのだが、憂さ晴らしとしての消費に全力で振り切れた末路を感じさせる程に俗な画が延々と続くのだ。
ただ、これは『イングロリアス・バスターズ』における映画でナチスを殺す構図に似ている。ドロシー・アーズナーは男社会での圧力、消費される女性像に対する怒りを《俗な演出》でもって炸裂させたとみることができる。徹底的に、ショービジネスの世界で身体を武器に消費されていく女性を、舞台的に描く。観客は、その世界に没入する。しかし、女性消費の要素が強まり、観客がヒロインに対して「姉ちゃん、脱がねぇのならお家へ帰りな」と煽りを入れ、女性の怒りゲージを溜めに溜めた限界値で、彼女はステージでこう吐き捨てる。
「好きなだけ見なさいよ!十分もとをとって帰るがいいわ!」
本作は1940年の作品なので、世界恐慌当初のミュージカルブームとは離れているとはいえ、下品で俗なセクシーさ全開で描き、最後に怒りで突き落とすこの演出が世に出たのは凄いことだと思う。それこそ、アメリカンニューシネマ的な暴力性すら感じられる。確かに、ドロシー・アーズナーのバックグラウンドありきな作品であるのですが、個人的には『死ぬまでに観たい映画1001本』掲載に耐えうる作品だと思いました。
※画像はcriterion.comより引用
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