『Ne croyez surtout pas que je hurle』映画で自慰すらできない男の自己提示

Ne croyez surtout pas que je hurle(2019)
英題:Just Don’t Think I’ll Scream

監督:Frank Beauvais

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

フランスの映画情報サイトAlloCinéで批評家平均4.3/5.0観客評価3.6/5.0の高得点を叩き出したドキュメンタリー『Ne croyez surtout pas que je hurle』がMUBIにて配信されました。映画仲間は「酷い映画だよ」と0点を下していたので不安でしたが、それは杞憂でした。と同時に、0点をつけたくなるのも分かる、映画的面白さを徹底的に排除したスノビズムな作品でもありました。

『Ne croyez surtout pas que je hurle』概要


Janvier 2016. L’histoire amoureuse qui m’avait amené dans le village d’Alsace où je vis est terminée depuis six mois. A 45 ans, je me retrouve désormais seul, sans voiture, sans emploi ni réelle perspective d’avenir, en plein cœur d’une nature luxuriante dont la proximité ne suffit pas à apaiser le désarroi profond dans lequel je suis plongé. La France, encore sous le choc des attentats de novembre, est en état d’urgence.
Je me sens impuissant, j’étouffe d’une rage contenue. Perdu, je visionne quatre à cinq films par jour. Je décide de restituer ce marasme, non pas en prenant la caméra mais en utilisant des plans issus du flot de films que je regarde.
訳:2016年1月に 私が住んでいるアルザスの村に連れてきてくれた恋物語も半年が過ぎました。45歳になった今、車もなく、仕事もなく、将来の展望もないまま、緑豊かな自然の中に一人でいることに気がつきました。フランスは11月のテロのショックからまだ立ち直っておらず、非常事態になっています。
私は無力感を感じています、私は含まれている怒りの中で窒息しています。ロスト、1日に4~5本の映画を見ています。私は、カメラを撮るのではなく、私が見ている映画の流れの中からショットを使って、この停滞を復元することにしました。
AlloCinéより引用

映画で自慰すらできない男の自己提示

映画監督は誰しも自分の映画史を作りたくなるものだ。クエンティン・タランティーノは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は失われたあの時代の映画業界を郷愁たっぷりに再構築した。一方で、パールフィ・ジョルジュの『ファイナル・カット』は往年の名作の切り貼りで、映画のクリシェを見つめ直した。何れにしても、監督の趣味嗜好が反映され、監督の映画に対する愛情が観客へと伝播し、観ている方も楽しくなる作品が多い。だが、この作品は映画というものを暴力的に、ラブレスな状態で切り貼りしている。どの映画かも判別が難しい、妙なカットの切り貼り。そしてナレーションの内容となかなか一致しないカットの積み重ねは、観るものにフラストレーションを与える。しかしながら、それは決して駄作のベクトルを向いているのではなく、人生の停滞に悩み、好きなはずの映画ですら自慰の素材として消費できない自分の状態をメタ認知している様を切り取った点で唯一無二の光を感じ取ることができる。

監督のFrank Beauvaisは、1999年から2002年にかけてBelfort Entrevues Film Festivalの映画選定者であった。2006年以降、運命の男であるアルノと出会い、彼にまつわる短編『Compilation, 12 instants d’amour non partagé(2007)』、『Je flotterai sans envie(2008)』等を次々と制作する。

しかし、そんな彼はなかなか長編映画デビューを果たせず、人生に停滞する。そんな自分を引きこもり生活の中で観た400本の映画のフッテージを用いて心情を捉えた作品がこの『Ne croyez surtout pas que je hurle』、直訳すれば、「俺が叫んでいると思うなかれ」だ。

彼は「他人の人生を題材にしている映画を観れども、書く気も、映画を撮る気も、他のことをする気も失せてしまうと語る。そんな心境を投影するように、この膨大なフッテージの中で、人の顔が映し出されるのは僅か数カットのみだ。ほとんどが手や無機質な機械の動き、ドライな自然に、悪夢的描写なのである。そして、人が映し出されても、その多くは仮面を被っていたりする。これは、他人に興味を失ってしまった監督の深層心理を表現すると共に、クリエイターの持つ、自分の中にあるものを曝け出す行為への拒絶が現れている。創造を拒絶しながらも、傑作を創造してしまう二律背反たる離れ業をFrank Beauvais監督は長編デビュー作にて実現しているのである。

思えば、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』は、他人の人生を覗き見することで意識の移ろい、過去の再現を嗜み、自慰の素材とする「わたし」が人生の最後に、クリエイターになれなかった自分の中にあるクリエイティブな側面に気づき、半自伝的な超大作を書く=本作を紡ぐという円環構造を持っていた。本作は、ドキュメンタリーとして映画界のプルーストになろうとする瞬間を捉えたと言える。映画を観る行為は他人の人生を覗く行為であり、映画ファンやクリエイターはその覗き見的行為からインスピレーションや元気をもらう。それを失った世界で、膨大な映画の渦からかつての自分を取り戻そうとするこの過程は痛々しく、タチが悪いことに観る者も監督と同じ立場で厭世的な停滞に付き合わされるのだが、奇跡的にも映画と社会の関係性を極限まで純度高めて描くことに成功していた。

そして本作は2020年、コロナ禍STAY HOMEで映画を楽しめなくなった者や、創作活動ができなくなり絶望の淵に追いやられた者に感動と新たなインスピレーションを与える贈り物だったと言えよう。

MUBIにて配信中なので、『THE GREEN FOG』や『ファイナル・カット』でフッテージ映画に嵌った方は是非挑戦してみてください。

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