『ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR』暴走族とオフ会なんて大差ない

ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR(1976)

監督:柳町光男

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日、国立フィルムアーカイブで開催されている《戦後日本ドキュメンタリー映画再考》に行ってきました。今回の特集では、松本俊夫や勅使河原宏の貴重な作品から、ダム映画までバラエティに翔んだ神ラインナップとなっているのですが、ブンブンのお目当ては『ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR』だ。『十九歳の地図』や『火まつり』と中上健次映画を手がけている柳町光男のデビュー作にして暴走族の内側に迫ったドキュメンタリーだ。暴走族と聞くと、反社会組織、非行青年の集まりという印象を受けるが、そんな軽いレッテルを貼っていいものなのか?そんな柳町光男の鋭い視線が向けられた作品でありました。

『ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR』概要


東映の助監督をやっていたことのある30歳の柳町光男が自主製作した長編記録映画。八年の歴史をもつ暴走族の大組織“ブラック・エンペラー”の新宿支部(構成員約百人)に属する少年たちの日常生活を淡々と撮る。撮影は、昭和49年10月~50年7月。カメラはアリフレックス、録音機はナグラ。ほとんど同時録音になっている。おもに、戸山ハイツの団地に住んでいる19歳のデッコと、新宿御苑前の旅館街に住んでいる16歳のゴムの生活を撮る。再現が一部にあるが、ヤラセはほとんどやっていない。4月、5月、6月と自主上映したが、7月1日から17日まで、東映が石井輝男の「暴走の季節」、岡本明久の「暴力教室」とともに三本立で都内上映した。7月、8月、9月の三ヵ月間の全国の映画館における上映権を、東映がもっている。(16ミリ)
映画.comより引用

暴走族とオフ会なんて大差ない

『失われた時を求めて』におけるサロンに始まり、映画オフ会、そして暴走族、結局全ての本質は一つに繋がっている。

それは、同族が集まることで、孤独を癒す。自分たちの居場所を作るということである。暴走族BLACK EMPERORの内部に迫ったこのドキュメンタリーは、開幕早々警察と激しい揉み合いが描かれる。世間一般が想像する暴走族の野蛮さを提示した上で、彼らの生き様を顕微鏡を覗き込むようにして捉えていく。ニューフェイスを迎え入れる集会。それぞれが自己紹介する。新入りには優しくと、あれだけ激しく警察ともみ合っていた青年たちは、おどけた顔をし、ジョークを言いながら迎え入れていくのだ。しかし、よくよく彼らの自己紹介に耳を傾けると「俺は中退なんかしてねぇ。なんたって、学校にすら通っていないのだから。無職さ。」などといったことを話しているのだ。彼らの笑みには、社会から外れてしまったコンプレックスを空元気で隠そうとする様が感じ取れる。そして、さらに倍率をあげて、彼らの生活を覗き込むと、中退、ないし不登校、無職だが、家族にも邪険に扱われ黄昏ているメンバーがいたりする。暴走族は、そんな社会のレールから外れた者同士が傷を共有する空間となっていたのだ。だから、無法地帯だと思われた暴走族をしっかり観察していくと、彼らなりの秩序があることがわかる。茨城から来た者に対しては、「田舎者だからってバカにすんじゃねぇぞ」と言う。また、「美味しいところだけ出席しているんじゃねぇ。俺らや先輩は、辛い思いをしたりしているんだ。みんなで乗り越えなきゃいけないんだ。」と痛みを共有することを口を大にして叫ぶ。そして、40万円を紛失した下っ端に対しては、激しく暴力で詰めるものの、最終的には金のことは諦め、無くした下っ端がどうすれば成長できるか、また組織の仲間として溶け込めるかについて考え始める。

これを見ると、社会は暴走族のようなミクロな世界であっても、日本というマクロな存在であっても、自然と秩序ができるものだということが分かる。自由は勝ち取らなくてはいけない。自由を得るためには、それなりのメンテナンスが必要だということが分かってくるのだ。無論、暴走族を賞賛しているわけではない。自分たちの居場所意識が強い、所謂ムラ社会であるので、辞めようとするメンバーに対して、「どうして俺に相談しなかったんだ。」と暑苦しく問い詰めるところは、会社組織だったらパワハラに該当する厳しいものを感じる。

ただ、日本では小学校、あるいは中学校を卒業すると家庭環境、学歴によって分断され、私のような大学を卒業してサラリーマンとして働くものからは《ケーキの切れない非行少年たち》は見えない存在となってしまう。そんな見えない世界にある組織にだって、映画オフ会と大差ない、居場所としてのコミュニティが存在することを柳町光男は教えてくれました。国立フィルムアーカイブが満席近くまで埋まったのも納得な力作と言えよう。

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