『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』すずさんの心情がより分かりやすくなり涙する

この世界の(さらにいくつもの)片隅に(2019)

監督:片渕須直
出演:のん、細谷佳正、尾身美詞etc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2016年に公開され話題になったものの、さらにシーンを追加すると語り2年近く沈黙していた片渕須直が遂にアップグレード版を公開した。これにより、2016年版では見えているようで見えていなかった諸々の心情描写が明らかとなり、より複雑で驚いたことに全く別の雰囲気を持った作品に仕上がっていました。

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』あらすじ


片渕須直監督がこうの史代の同名漫画をアニメーション映画化して異例のロングランヒットを記録し、国内外で高い評価を得た「この世界の片隅に」に、新たなシーンを追加した長尺版。日本が戦争のただ中にあった昭和19年、広島県・呉に嫁いだすずは、夫・周作とその家族に囲まれ、新たな生活を始める。戦況の悪化に伴い生活も困窮していくが、すずは工夫を重ねて日々の暮らしを紡いでいく。そんなある日、迷い込んだ遊郭でリンという女性と出会ったすずは、境遇は異なるものの、呉ではじめて出会った同世代の女性であるリンと心を通わせていくが……。片渕監督のもと、主人公すず役ののん、今作でシーンの追加されたリン役の岩井七世らキャスト陣は変わらず続投。
※映画.comより引用

すずさんから見る防衛反応としての肉欲

2016年公開時、密かに映画ファンの間で語られてきた視点に、意外と官能描写がエグいというところがある。嫁入りをし、北条周作の家で暮らすことになったすずさんはいきなり接吻をかわしたりしているのだ。そして今回の追加シーンでは、こういった唐突に展開される肉欲の場面が強化されており、寧ろそこを中心に追加していくことで、戦時中における防衛本能としての肉欲を緻密に描いていた。

すずさんは、ボーッとしている女性であるが、忍び寄る戦争の足音に危機感を抱き、子どもを作ろう、男の子を産もうとする。そして密かに昔の友人・水原に対する恋を抱きながら、ドライな周作に愛を求めていく。そんな微妙な恋の揺らぎを激しく揺さぶるのが、今回追加されたリンさんのシーンだ。彼女は、何故、子どもを作るの?もし、男の子が生まれなかったらどうするの?と激しく疑問を投げかけていく。すずさんは、パニックになり何が正しいのかが分からなくなっていくのだ。

そんな彼女は、遂に子どもを産めない体になってしまう。そしてある出来事によって、彼女は心身共にボロボロになる。すると、彼女は段々と自分が無意味な存在であることに幻滅していくのだ。何故、彼女は終盤極右のように激しく日本はまだ戦争に終わっていないと叫びながら、火消しに力を費やすのかが今回はっきりと分かる。彼女は自分の無力感に絶望してしまっているのだ。「この世界の片隅に」というタイトルは我々がみると肯定のメッセージに思えるが、すずさんにとってみんな戦争を必死に生きているのに何もできない「この世界の片隅に」いる自分が許せないのです。

そして、終盤で子どもを拾ってくるシーンは今回追加されたシーンで非常に意味ある場面へと変化を遂げていました。

戦争の危機によって、子孫を残さねばならないという生存本能をゆるーいタッチに反しストイックな台詞で描いてみせたアップグレード版でした。

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