『ライトハウス』A24×ロバート・エガースが放つ閉塞感の美学

ライトハウス(2019)
The Lighthouse

監督:ロバート・エガース
出演:ロバート・パティンソン、ウィレム・デフォーetc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

今年のカンヌを席巻させたA24×『ウィッチ』のロバート・エガース再タッグ作品『The Lighthouse』。日本ではどうやらA24が条件に出す上映環境を提供できる映画館がないらしく、劇場公開が厳しいと聞いて米国iTunesで観ました。ただ、これは映画館で観ないといけないタイプの映画であることは明白で、ここは日本未公開映画ブロガーとしてしっかり紹介していかないと思いました。ということで『The Lighthouse』を紹介します。

『The Lighthouse』あらすじ

Two lighthouse keepers try to maintain their sanity while living on a remote and mysterious New England island in the 1890s.
訳:2人の灯台を守る男は、1890年代に人里離れた神秘的なニューイングランドの島に住んでいる間、正気を維持しようとする。
imdbより引用

閉塞感がもたらす幻影

いつの時代にも、職場がもたらす閉塞感は存在する。

ロバート・エガースはサイレント映画時代の横狭なフォーマットによって閉塞感をもたらしたが、それは単なる彼の映画愛に留まることはなく、閉塞感による抑圧がどこから来るのかを捉えている。本作は脚本を読むと、OLDとYOUNGとしか役柄が与えられておらず、抽象的に労働における上下関係を描いている。ロバート・パティンソン演じるYOUNGはウィレム・デフォー率いる威張り屋OLDの下で灯台を守らねばならない。灯台の仕事は過酷だ。毎日汗水流して灯を絶やさないようにしないといけない。高確率で暴風雨が吹き荒れる。そしてパラノイアになりそうな機械音が響き渡っている。そんな世界で、上から高圧的に罵る男が前にたち憚るのだ。彼の圧、そしてフラストレーションが溜まって行く労働が次第に彼に幻覚を呼び覚ます。その幻覚は現実にも侵食してきて、カモメは彼の行く道を塞ぐ。タコや人魚の気持ち悪いヴィジュアルが轟音と共に襲いかかるのだ。

これは、現代における仕事の場でも十分起こり得る話だ。仕事をせず命令ばかりする上司、何もかも上手く行かない仕事。逃げようにも四方八方が行き止まり、進めば死んでしまう世界。そこで食事から寝るまで人間三大欲求までも、嫌なものと過ごさねばいけないパラノイアを本作は、緻密でシュールなヴィジュアルでもって閉じ込めてみせた。その雁字搦めの閉塞の小屋の中では、ロバート・パティンソンもウィレム・デフォーも彼としてのアイデンティティを失い、片や怒りを爆発させる寸前で苦しむ者、片や欲望のままに混沌を生きる壊れた者を象徴していくのだ。

これは、労働が人間を蝕む様を映画的ヴィジュアルの面白さで描き切った渾身の作品と言えよう。

What?

本作は脚本を読むこともオススメしたい。友人との間で話題となったのは、脚本のい途中で、What?しか出てこない狂気の場面が存在するのだ。もはや自我を失い、他者すら理解できなくなりかけた世界の狂気をこの1ページで演出してみせる遊び心込みで面白い作品でした。

『The Lighthouse』の脚本

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