シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション(2019)
Nicky Larson et le parfum de Cupidon
監督:フィリップ・ラショー
出演:フィリップ・ラショー、エロディ・フォンタン、タレック・ブダリetc
評価:100点
週刊少年ジャンプにて掲載されていた北条司の人気漫画『シティーハンター』。今年の初めに28年ぶりの映画版が公開され話題となった。同じ頃、遠く離れたフランスでも実写化されていた!『世界の果てまでヒャッハー!』、『真夜中のパリでヒャッハー!』、『アリバイ・ドット・コム カンヌの不倫旅行がヒャッハー!な大騒動になった件』で監督から脚本、さらには主演まで務め、フレンチコメディ界を賑わす新鋭フィリップ・ラショーがあまりに原作が好きすぎて、自ら北条司に交渉をしてまで映画化を試みたのだ。しかも、自らが冴羽獠を演じるという狂気でもって。そして、原作愛を伝えるべくファルコンは、ファルコンに似ている人(格闘家らしい)をわざわざ探し出し、無名な俳優ながら抜擢する力のいれようである。フランス映画界史上ワーストの評価である『DRAGONBALL EVOLUTION』を観て哀しんだ彼が挑む実写版、如何なものか?ネタバレありで語っていきます。
※フランスでの評価まとめました:【小話】フランスでは実写版シティーハンター『Nicky Larson』が公開されていた!!
『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』あらすじ
日本では1980年代にアニメ化されて根強い人気を誇る北条司の漫画「シティーハンター」をフランスで実写映画化。ボディガードや探偵を請け負う凄腕のスイーパー(始末屋)=「シティーハンター」ことリョウは、相棒のカオリとともに日々さまざま依頼を請け負っていた。そんな2人のもとにある日、その香りをかいだ者を虜にする「キューピッドの香水」の奪回という危険な任務が持ち込まれる。香水が悪用されれば世界は危機に陥ることは必至で、48時間というタイムリミットのなか、2人は香水を取り戻すために奔走する。フランスの大ヒットコメディ映画「世界の果てまでヒャッハー!」を手がけたフィリップ・ラショーが監督・脚本・主演。日本語吹き替え版は、リョウ役を山寺宏一、カオリ役を沢城みゆきが担当。アニメ版オリジナルキャストの神谷明と伊倉一恵はスペシャルゲストとして、アニメ版とは異なる役の吹き替えで参加する。
※映画.comより引用
カレーライスの正しい出し方
昨今の漫画原作ものは、原作レイプという感想がデフォルトでついてくる。これはカレーライスを食べたいのに、カレーに思い入れが強すぎて香辛料強めのインドカレーを出してきたり、ハヤシライスを出してきたり、酷い場合にはよくわからない創作カレーを出してきたりするのが原因である。これは、金が潤沢にあるアメリカでも言える話であり、NETFLIX版『DEATH NOTE』の場合、本当に原作読んでいるのかすら怪しい、知能レベルお猿さんレベルの登場人物が右往左往する爆笑の原作崩壊であった。
『シティーハンター』の場合、冴羽獠がXYZのメッセージを受け取り、槇村香と共にドタバタ事件を解決する。助平でキザな冴羽獠だが、こことぞいうときにはカッコよくキメる。香とはどんなに親密になろうとも、決して結ばれず、Get Wild and toughとアスファルトを斬り付けて終わる。
昨今の社会情勢だと、パワハラセクハラ上等な内容で、少しでも気を緩めれば綺麗な作品へと修正されてしまうだろう。しかし、それは『シティーハンター』ではない。我々が観たいのは助平で気障な冴羽獠なのである。そういったお下劣なのを観たくなければ、避ければ良いだけである。フィリップ・ラショーはファッションからギャグから何から何まで厳格に『シティーハンター』をやってのけた。ただ、それだけだと一見さんお断り映画になりかねないし、単なるコスプレ映画になってしまう。
フィリップ・ラショーはコメディの達人だ。そしてオタクの鏡だ。一見さんも楽しめ、『シティーハンター』の世界に惹かれるよう絶妙な塩梅でローカル化を図っていた。フレンチコメディは、ハゲが好きである。ハゲを制する者コメディを制すると言っても過言ではない。『ようこそ、シュティの国へ』、『ミッション・クレオパトラ』、『奇人たちの晩餐会』と人気者になるコメディ映画はハゲキャラが上手く活かされている。本作の場合、『シティーハンター』の世界観に迷い込んだ、ちょび髭ギャグと、ちょっとゲイゲイしいキモ男を素晴らしい狂言回しとして機能させ、ピタゴラスイッチ的に状況を悪化させていくのです。ハゲが、香水を使ってドンドン美女を翻弄し、事態を悪化させていく。香水のせいで香にメロメロなキモ男は、彼女のことを変態きな目で追い回し、彼女を助けるかと思いきや、これまた事態を悪化させていく。そんな彼はずっと帽子を被っているのだが、最後に彼もハゲだったというオチがつくのです。そういった高度なことを、しれっとやってのけるフィリップ・ラショーに脱帽である。
しかも、全力で『シティーハンター』の世界観を盛り上げようと、原作にあったエロ本が飛び出す場面、100tハンマーシーンを完全再現するのはもちろん、冴羽獠目線のアクションを挿入したりととにかく徹底的に工夫して回る。それでもって話は鈍重にならないように、余分なショットを削ぎ落とすのだ。今回は相方のニコラ・ブナム不在だったようですが、それでも100tハンマーの威力を出せる彼は今後も注目していきたいです。
ララ・ファビアンのJe t’aimeについて
今回吹き替えで観たのですが、吹き替えも自由で素晴らしかったです。ただ、一部フランス語部分が翻訳されていなかったのでギャグが隠れてしまった部分がありました。1点補足すると、冴羽獠が香水のせいで依頼人のルテリエに恋焦がれてしまい彼に電話をするのだが、彼に恋人がいて哀しみに暮れる場面。そこでララ・ファビアンの《Je t’aime(君を愛している)》が007シリーズのオープニングのように流れるのだが、その歌詞が妙に感傷的で素晴らしいギャグになっています。je t’aime
D’accord, il existait
D’autres façons de se quitter
Quelques éclats de verre
Auraient peut-être pu nous aider
Dans ce silence amer
J’ai décidé de pardonner
Les erreurs qu’on peut faire
À trop s’aimer
D’accord souvent la petite fille
En moi souvent te réclamait
Presque comme une mère
Tu me bordais, me protégeais
Je t’ai volé ce sang
Qu’on aurait pas dû partager
À bout de mots, de rêves
Je vais crierJe t’aime, Je t’aime
Comme un fou, comme un soldat
Comme une star de cinéma
Je t’aime, je t’aime
Comme un loup, comme un roi
Comme un homme que je ne suis pas
Tu vois, je t’aime comme ça
好きです
たしかに、彼はいたのよ
別れる方法は他にあったはずなのよ
なんというガラスの破片なんでしょう
わたしらを助けることができたんじゃないの
この苦い沈黙の中で
私は許すことにしたわ
起こりうる間違いなのよ
自分を愛しすぎることによる
さて、しばしば娘が
あなたに訊くのよ
母親さながら
あの娘は私に癒し、私を守ったのよ
私はあなたの血を盗んだわ
共有すべきではなかったこと
言葉の淵に、夢なんてものを
私は泣き叫びたいのよ愛してる、愛してるのよ
狂人のように、兵士のように
映画スターのように
愛してる、愛してるのよ
オオカミのように、王のように
男のように、私はそうではないけれど
こんなにも愛しているのよ
Je t’ai volé ce sang(私はあなたの血を盗んだわ)というところに、本作における赤い香水を重ね合わせ、、冴羽獠は男なのにComme un homme que je ne suis pas(男のように、私はそうではないけれど)という歌詞を被せ、ひたすらにJe t’aimeと叫ぶのです。この選挙の鋭さ、凄くないですか?日本の字幕、吹き替えは著作権の関係で中々、劇中歌に字幕がつかない。そうなるとどうしてもギャグが取りこぼれてしまう。仕方ないことなのだが、この場面で笑っているのがブンブンだけで少し悲しかったです。
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