【LBFF2019】『蜘蛛』蜘蛛の糸のように張り巡らされる暴力は、男女の交わりにて破壊された

蜘蛛(2019)
Araña

監督:アンドレス・ウッド
出演:マリア・バルベルデ、メルセデス・モラン、マルセロ・アロンソetc

評価:55点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

日本の下半期重要映画祭にラテンビート映画祭があります。毎年新宿バルト9で開催されるこの映画祭はラテンアメリカの重要作品を上映してくれる。過去にはパブロ・ララインが教会のセクハラ問題の暗部に迫った『ザ・クラブ』やピーター・グリーナウェイが『メキシコ万歳!』製作背景を映画化した『エイゼンシュテイン・イン・グアナファト』などを上映した実績があります。今年も注目作品が目白押しとなっている。テン年代ラテンアメリカベスト100に『ヴィオレータ、天国へ』が選出されているアンドレス・ウッドの最新作『蜘蛛』が上映されるということなので観てきました。

『蜘蛛』あらすじ


1970年代初頭のチリ。極右民族主義者のグループはアジェンデ政権の転覆を画策。メンバーのイネス、彼女の夫フスト、親友のヘラルドは、歴史の流れを変えるような政治的犯罪を成し遂げる。だが恋愛関係のもつれもあり後にグループは分裂。40年後、イネスは名の知れた実業家となっていた。チリの激動の政治史と男女の愛憎劇を絡めた本格派サスペンス。
監督は『マチュカ 僕らの革命』、『ヴィオレータ、天国へ』(LBFF2012出品)の名匠アンドレス・ウッド。40年後のイネス役を『夢のフロリアノポリス』(LBFF2018出品)、『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』(LBFF2017出品)で注目されたメルセデス・モランが演じている。
※LBFF2019サイトより引用

蜘蛛の糸のように張り巡らされる暴力は、男女の交わりにて破壊された

サッカー教室に高飛車な女がやってくる。コーチに「金を払っているんだから息子を試合に出させてよ」と懇願するが、断られる。ブチギレた彼女は、息子に「金払っているんだから試合に行きなさい、ほら君達も!」と言い、試合をかき乱す。一方で、髭面のおじさんにフォーカスが当たる。彼が運転していると、女性がひったくりに遭っているところに遭遇する。彼女は助けて!と叫ぶが誰も助けてくれない。逃走するひったくりと対峙した髭面のおじさんは、車を爆走させて彼を追い詰める。そしてそのまま轢き殺してしまうのだ。しかし、町の英雄となる彼の車から銃がボロンと出てきて、さらに彼の家からたくさんの銃器が出土したことから彼は取り調べを受けることになる。そこから段々と、かつてアジェンデ政権打倒を目指して活躍した極右民族主義グループ《Araña(蜘蛛)》のメンバーであることが明らかになる。

本作は現在と過去を往復しながら極右思想の移ろいを描いていく。昔はアジェンデ政権という方向に向けられた暴力は、現代になると移民排斥に向けられる。その過激さの対比を試みるという時点で面白さは保証されたもの。しかしながら、本作は隙あらば男と女が交わる官能ドラマに逃げてしまっているのが物語を崩壊させるトリガーとなってしまっている。確かに官能と政治的過激さを絡めた傑作は若松孝二の『天使の恍惚』みたいにあるのだが、本作における官能描写はあまり意味をなしていないように見える。官能というアクションが物語を止めてしまっているのだ。『天使の恍惚』のように、暴力の行き場がなく、避雷針として行為が使われている訳でもないので退屈でどうでもいい場面にしか見えないのだ。行為の場面をもっと、政治闘争場面に費やせば傑作になったのになと思いました。

余談だが、本作を観るとチリって不寛容な国かと思うのですが、世界幸福度報告2019によればチリの「寛大さ(Generosity)」は世界45位に対して日本は92位なので、日本の方が遥かに不寛容だそうです(確かに)。

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