バスキア展 メイド・イン・ジャパンリポート:飛び抜けた次元で描くグラフィティ/落書

バスキア展 メイド・イン・ジャパンリポート

先日、六本木 森アーツセンターギャラリーで開催されているバスキア展に行ってきました。

ジャン=ミシェル・バスキアとは1970~80年代にかけて現代アート界を賑わせた新表現主義アーティストの一人。落書にしか見えない作品が、アート界で認められるという伝説を作った人物だ。彼のアートは多くの人を魅了し、同じく新表現主義アーティストで『潜水服は蝶の夢を見る』、『永遠の門 ゴッホの見た未来』の映画を製作したことで有名なジュリアン・シュナーベルは彼の伝記映画を撮っていたりします(余談だが、その映画『バスキア』でアンディ・ウォーホルを演じたのはデヴィッド・ボウイ)。また、元ZOZO社長の前澤友作が『無題』を123億円で落札したことでも有名です。今回の展覧会では日本初の大規模バスキア展で130点に及ぶ貴重な作品、そして前澤社長が落札したあの作品まで観ることができる。ということで観てきました。

バスキア展情報


会期
2019.9.21(土)~ 11.17(日)
※休館日9月24日(火)

開館時間
10:00~20:00(最終入館 19:30)
※ただし9月25日(水)、9月26日(木)、10月21日(月)は17:00まで(最終入館 16:30)

会場
森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)

料金
一般:2,100円
高校・大学生:1,600円
小・中学生:1,100円

数式、暗号の中に見えるバスキアのアイデンティティ

バスキアが評価されたのは、時代による運要素が大きかったと捉えている。バスキアが活躍した1970~1980年代は、丁度ヒップホップが発見された時代。廃墟同然になった、サウスブロンクスで、強烈個性的な落書=グラフィティが製作された。そして1982年にはカルト映画『ワイルド・スタイル』の登場で、廃墟から生まれた高度で朽ちた芸術ヒップホップが本格的に世界に認められるようになった。それにより落書もアートだということを芸術界隈で認識されるようになった時代。だからこそ、バスキアの強烈な色彩、荒々しい言葉や線で描かれるヴィジュアルは芸術評論家の間で注目された。その中の一人ルネ・リカードの積極的な売り込みも功を奏し、またアンディ・ウォーホルとの邂逅も助けとなりバスキアは時代の籠児となった。

なので、結局は時代に見合った落書だったから評価されたのでは?と思っていたのだが、今回、彼の展示を至近距離で観ると、バスキアは相当なインテリで、他のグラフィティと比べると明らかな差異が存在することを感じ取りました。彼の荒ぶる作品をじっくり凝視すると、化学方程式や数式、またヴァスコ・ダ・ガマ、レオナルド・ダ・ヴィンチ等の歴史人物の関係図、人体解剖図といった情報が事細かく描かれているのだ。

バスキアの象徴である骸骨は、幼少期に骸骨に魅せられたことによるものだそうだが、彼はただ骸骨が好きなのではなく、彼は一つの物を構成する構造に非常に関心を持っていたことが伺える。そして、緻密に描きこまれた暗号を観ると、自ずと彼はハイチ系とかプエルトリコ系とかそういった表面的な印象よりも、内面で自分を観てほしいというメッセージが常に込められているのではと考えることができる。

コンポジションノートに描かれたアイデア、まるでブレインストーミングした結果をホワイトボードに書き込むように絵に落とし込む彼のアイデアは、確かに落書を超えて人を惹きつけるものがあった。そして、実際に行かないと分からないバスキアが絵に隠したアイデンティティや周りの目を逃れる息苦しさというものを感じ取ることができて大満足でした。個人的に『対メディチ家』が好きでした。

『対メディチ家』分析

最後に、先日、秋田麻早子著『絵を見る技術』という本で絵画の見方の勉強をしたので、実践してみよう。絵画は、著作権周りが厳しいので絵が貼れないのですが検索して探してもらえるとありがたいです。

この作品のフォーカルポイント(映画における主人公)は疑いようがなく、中央に鎮座する真っ黒な男の肖像です。3枚の板からなるこの作品は、板と板の間をバランス取りの線として使い、中央にズンッと構える男に安定感があります。さらに赤と黄色によるコントラストと白の背景が交差するところが丁度、絵の中心に来るように配置されていることからバランスが取れています。そして、その中心線に沿って目線を動かすと、複雑怪奇に絡み合う腸のような物が見える。しかし、その線の先に目を動かすと、口ではなく耳に腸が繋がっている。

そして左に目をやると露骨に青い誘導線が引かれており、ELBOW(肘)という文字が消されていることに気づくでしょう。かき消された単語を貫くように青線は続き、それは手へと続く。手の向く方向を見るとそれは先ほどの腸が繋がった耳に通じている。どうやら耳から血を出しているようだ。

右へと視線をずらしていくと《Aopkhesks》という単語が3回描かれており、その下に王冠が描かれている。少し調べたのだがすみません。Aopkhesksの意味は分かりませんでした。ラテン語かな?人名かな?と疑ったのですがよく分からず…ただ、王冠が頭ではなく、雑に横に置かれていることから、フランス軍の侵攻に対処できずメディチ銀行が破綻し、凋落していくメディチ家を暗示させるものなのではないかと勘ぐることができます。全体を俯瞰して観ると、身体の端々から綻びが出ていることからも、本作のテーマは《凋落》なのではと考察できます。

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