劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD(2019)
監督:瑠東東一郎
出演:田中圭、林遣都、内田理央、吉田鋼太郎etc
もくじ
評価:20点
WARNING:この記事はドラマ版『おっさんずラブ』を観ていない全くの部外者のネタバレありのボヤきとなっております。ドラマ版のファンは軽くスルーすることをオススメします。春田が誰とくっつくのかについて本記事が熱く語ることはありません。
おはようございます、チェ・ブンブンです。
低俗だ、マスゴミだとネット界隈のサンドバッグにされがちなテレビも少しずつ変わろうとしています。最近は『きのう何食べた?』をはじめ、LGBTQに対してテレビ局も考えていこうと、最近は同性愛を扱ったドラマがテレビで放送されるようになってきた。国営放送NHKも『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』を放送するなど、日本も性の多様性に大分明るくなったと思われる。
『おっさんずラブ』はその代表であり、2018年には流行語大賞トップテン入りを果たすぐらいのブームとなり、今まで肩身の狭かったBLの社会的地位が向上する結果になった。さてその映画版が公開された。実は『おっさんずラブ』1話も観ていないのですが、折角TOHOシネマズフリーパスポートを発行しているので観てきました。
『劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD』あらすじ
田中圭、吉田鋼太郎、林遣都の共演で3人の男たちの恋愛を描いたテレビドラマで、2018年の新語・流行語大賞トップテンに選出されるなど社会現象的な人気を獲得したラブコメディ「おっさんずラブ」の劇場版。ドラマでの三角関係をグレードアップさせた、おっさんたちによる「五角関係」の恋愛バトルが描かれる。春田創一が上海、香港転勤から1年ぶりに日本へ帰ってきた。黒澤武蔵をはじめとする天空不動産第二営業所のメンバーたちが春田を歓迎する中、天空不動産本社で新たに発足したプロジェクトチーム「Genius7」のメンバーが春田たちの前に現れた。リーダーの狸穴迅は、春田たちに即刻営業所から立ち去るよう言い放つ。狸穴の側に本社に異動した牧凌太の姿を目にして激しく動揺する春田を新入社員のジャスティスこと山田正義が元気づける。そして、あの時に終わったはずだった黒澤の恋心にもふたたび火がついてしまい……。田中、吉田、林らドラマ版のキャストに加え、劇場版で新たに登場する狸穴役を沢村一樹、ジャスティス役を志尊淳がそれぞれ演じる。
※映画.comより引用
ドラマ版観ていなくても楽しめます
まず最初に、ドラマ版を観ていなくても楽しめるのか?ということについて語っておきます。
「全く問題ありません。」
監督の瑠東東一郎、脚本の徳尾浩司は、ファンムービーの域に留まらず一見さんにも門戸を開きました。物語としては、しっかり起承転結の「起」から始めており、映画として観た時に、「香港就任から帰ってきた男が、会社の政治に巻き込まれ、新しい土地開発プロジェクトに東奔西走する物語」として成立している。そして各キャラクターの立ち位置は、春田、牧、栗林、山田の4人のオーラが似たり寄ったりすぎる問題こそあれど、前半時間をかけてそれぞれの立ち位置について解説してくれる親切設計なので、中盤、吉田鋼太郎演じる黒澤部長が記憶喪失になる頃には私も爆笑しながら楽しめました。特に、サウナで次々と春田の前に男が現れ、俺が俺がと春田を取り合う様、うどん屋に弟子入りし、部長と山田がバチバチ恋の火花を散らす場面は抱腹絶倒でした。
なので、テレビドラマの映画版としては誠実な作りと言えることでしょう。
BLを喰い物にしていないか?
ただ、ドラマ版はどうか分からないが、個人的に怒りが込み上げてきました。それはBLや同性愛を笑いの食い物として消費してしまっているところです。
「BLってのがあるんだって?」
「ウケとかセメとか大事なんでしょ?」
「ギャップ萌え好きだろ?」
「こういうのに欲情するんだろ?」
とまるで土足でズカズカ商店街に入り立ち退きを要求する本作の登場人物さながら、浅はかな商売根性で「ウケる」ネタを並べていくスタンスに失望しました。BLなんて、分かっているようで全く分かってないように見えるし、その先にある同性愛なんて軽い「個性」として扱いすぎだ。
確かに、LGBTQ映画最大の目標はLGBTQというラベルがなくなるくらい愛の多様性が社会に認められることであり、本作の白昼堂々と提示される同性愛は理想に近いのかもしれない。しかし、本作は嘲笑の視点に覆われているのだ。
あの人とこの人が付き合っているんだって、クスッと嘲笑う様は製作者の魂胆そのものだろう。そして、その術中にハマって笑ってしまった自分に後ろめたさを感じました。
過剰な感情
また本作を同性愛映画という仮面を外して観た際に、これまた問題が大ありです。何と言っても、全編、全登場人物が感情を叫ぶことでしか感情表現できない事態はどういうことだろうか。特に田中圭演じる春田は、体育会系の商社でも見かけないであろう、常に「えーーーーー!」「ンァあああああああ!」と叫び続ける彼の豪傑さには、うんざりしてくる。他に愛情表現はないのかと思ってくる。山田はルー大柴のようにカタカナ英語を大声で叫び、部長も世界の中心は俺だと言わんばかりに愛を絶叫する。監督は、感情を演出することを諦めてしまったらしい。この単調な感情表現は、映画にメリハリをなくすこととなり、映画が間延びしたものに感じてしまう。
無意味な爆破救出劇
そして、本作最大の問題はクライマックスの救出劇にある。映画版ということで、映画にしかできないことをやろうと爆破救出劇を導入しているのだが、これが本筋とあまり関係ないように見えるのだ。事の発端は、天空不動産が外資企業との提携を解消したことにより、その相手企業が誘拐騒動を仕掛けたことから始まる。正義感強い春田は単身相手企業に乗り込むが、銃を突きつけられ、あっさりと倉庫に監禁されてしまう。そこには救助対象者がいて、彼女の手元には何故か時限爆弾があるのだ。
到底10分で営業所の人々が、倉庫に辿り着けないだろう問題についてはフィクションとして目を瞑るとして、そこからの重要なアクションシーンがこれまた酷い。製作陣が全くもってアクションに興味がないことがよく分かります。爆発による炎が包む中、決死の脱出が繰り広げられるのだが、頑丈なはずの扉は簡単に破れる。業火の中、鉄骨を伝う場面は、事務的に通過させてしまう。鉄骨が落ちて、死を予感させる場面は数度に渡り演出される。そして、なんだかんだで脱出に成功する。
なんだかこのシーンにおいて炎は、ホログラムで全然痛くも熱くもないのではと思ってしまうのです。折角、映画版だからと用意した場面が、空気となってしまっている。これは映画版として失敗なのではないでしょうか。
最後に
正直、今月は『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』、『イソップの思うツボ』、『世界の涯ての鼓動』とネタバレ酷評枠が多くて困惑している。できればこんな記事を書きたくないのですが、この夏はどうも不作らしい。そして、これらの作品を踏まえて本作は、面白いところも多かっただけに、製作陣の不誠実な作りと雑な演出に幻滅してしまった。無念である。
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