アルキメデスの大戦(2019)
The Great War of Archimedes
監督:山崎貴
出演:菅田将暉、柄本佑、浜辺美波、笑福亭鶴瓶、小林克也etc
評価:70点
おはようございます、チェ・ブンブンです。この夏は、魔王山崎貴が映画ファンの前にたち憚りました。『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』はあまりにも愛がない演出と衝撃の結末に多くの人が悶え苦しんだ。一方で、『アルキメデスの大戦』は「山崎貴、やればできる子」と普段は全力で彼の作品を叩く映画ファンも大満足の出来となっているようです。実際に観てみると、なるほど今の日本を強烈を商業大作であそこまで痛烈に批判しているとは『新聞記者』にはできない芸当だなと感じた。と同時に、この映画で描かれていることは山崎貴本人のことであることに気づき、そりゃ熱量が違うわけだと思った。ここではネタバレありで『アルキメデスの大戦』の裏に隠された山崎貴の苦悩を読み明かしていく。
『アルキメデスの大戦』あらすじ
戦艦大和の建造をめぐるさまざまな謀略を描いた三田紀房による同名マンガを、菅田将暉主演、「ALWAYS 三丁目の夕日」「永遠の0」の山崎貴監督のメガホンで実写映画化。日本と欧米の対立が激化する昭和8年、日本帝国海軍上層部は巨大戦艦・大和の建造計画に大きな期待を寄せていたが、海軍少将・山本五十六はその計画に待ったをかけた。山本は代替案を提案するも、上層部は世界に誇示する大きさを誇る大和の建造を支持していた。山本は大和の建造にかかる莫大な費用を算出し、大和建造計画の裏に隠された不正を暴くべく、天才数学者・櫂直を海軍に招き入れる。数学的能力、そして持ち前の度胸を活かし、大和の試算を行っていく櫂の前に帝国海軍の大きな壁が立ちはだかる。菅田が櫂役、舘ひろしが山本五十六役を演じるほか、浜辺美波、柄本佑、笑福亭鶴瓶らが顔をそろえる。
※映画.comより引用
菅田将暉演じる天才数学者・櫂直こそが山崎貴だ!
冒頭、戦艦大和が沈没するところから始まる。極力セリフを排除し、巨大戦艦が大海に沈む悲しさをドラマチックに描く。なので本作のエンディングは天才数学者が国家の不正を暴き、戦艦大和製造を阻止したハッピーエンドではないのだ。しかし、その展開に転がるのはラスト5分である。主軸は冒頭を忘れてしまうくらい天才数学者が仲間を集めていき、愚直に国家の不正を暴いていく池井戸潤の会社ドラマに熱くなる。
と同時に、これは山崎貴本人の物語とも言える。彼は商業映画の王として3DCGクリエーター集団を率いて活動している。そして東京2020 開会式・閉会式 4式典総合プランニングチームにも選出され、まさに国の代表的存在となっている。しかしながら、彼は密かに、自分の作品の売り方について疑問を抱いている。
『ALWAYS 三丁目の夕日』や『STAND BY ME ドラえもん』の副題に英語を入れるところに関してはインタビューで下記のように発言している。
「頭に英語が付いたタイトルは、僕ではなく、ほとんどがプロデューサーの阿部(秀司)さんのアイデア。『~三丁目の夕日』が最初だったんですけど、阿部さんの考えでは、若い観客がチケットを買う時に“三丁目”より“ALWAYS”の方が言いやすいだろう、と。その結果、作品が若い層にも届いたんです。なるほどすごい戦略だなと思いました。ただそこで味を占めて(笑)、その後“friends”とか、やたらとタイトルに英語を付けるようになって(笑)。世間ではそこに反感を覚える人もいるみたいですけど、まあその気持ちは僕も分からなくもないです(笑)。その意味では“ドラ泣き”というコピーに違和感を抱く人がいるのも多少は理解できるんですよ。そもそも泣くか、泣かないかは観客が決めることでしょう。それを最初から『泣けますよ』と言い切るのはなかなか思い切った戦略です…。しかし史上最強のコピーでもあります。“ドラ焼き”にも掛かってるし(笑)」
※INTERNET TVガイドDialy《『永遠の0』『ドラえもん』そして『寄生獣』…山崎貴監督が持つヒット連発の方程式とは!?(上)》より引用
名声と莫大な予算は得たものの、映画会社や広告会社、組織の横やりによって思うように映画が作れず、結果的にヒットこそすれど映画ファンから袋叩きにされてしまう映画が産み落とされてしまう現状をこの映画の数学者の顛末と重ね合わせて描いていたのだ。これは山崎貴のSTORYだ。ましてや問題の『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』はシネマトゥデイの記事によると
1986年「DQ」第1作が発売され、一大ブームを巻き起こしている最中、早くも映画化の打診があったという堀井。「当時、『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(1988年)を映画化しようという話があったのですが、お断りしたんです。ゲームは体験してこそ面白さがわかるもの。それを映画にして客観的に観ても、面白くないでしょう? と」。あれから約30年。なぜ、いまなのか。
「時代が変わり、ゲームもより物語性が重要視され、近年、実況プレイなどゲームを観ること自体が面白い、という新たな楽しみ方が生まれてきた。これなら映画化しても『観る』という部分で気持ちを共有できるはず」と理由を明かす堀井。そんななか、立ち上がった企画が「天空の花嫁」の映画化だった。「僕自身も思い入れのある作品で、しかも山崎監督が映画化するということで絶対に面白いものになると。もう二つ返事でOKしました」
これに対して山崎は、「堀井さんの言葉はうれしい反面、『本当にこの企画が動き出すんだ』という怖さもありましたね。僕も実は4年前からオファーをいただいていたんですが、ずっとお断りしていたんです。なぜなら、ゲームは人によっては何十時間もやるメディアですから感情移入の幅が半端ない。それを映画という技法で対抗するのは難しいなと。そもそもゲームを映画化してうまくいった作品をあまりよく知らないので」と本音を吐露した。
ところが、その後もプロデューサーから熱心に声を掛けられたことから、「だんだんその気になってきた」という山崎は、「副読本のようにならず、ゲームというメディアと戦える方法はないだろうか……ということを来る日も来る日も考えていた」と述懐。そしてある日、映画のプロットを書いているときに、「今回挑戦した新たな手法がふっと浮かんだ」と声を弾ませる。
※シネマトゥデイ《「ドラゴンクエスト」生みの親・堀井雄二、映画化で山崎貴総監督にお願いした2つのことより》引用
とずっとこの企画に疑問を呈していたのですが止められなかったと山崎貴の口から語られているのです。山崎貴がいかに組織の犬として苦しんでいるのかがよくわかります。そんな彼の分身のように現れた『アルキメデスの大戦』の企画は幸運なことに映画会社や広告会社から下手な横やりが入らず作れたのであろう。彼の苦しみを可能な限り映画にぶつけていました。だからいつもの彼とは違う、情熱を映画に感じることができる。これが映画ファンからの高評価に繋がったのであろう。
とはいえ、映画として下手な部分も多い。感情は全てセリフで語ってしまうし、数学者が渡米を中断する描写に弱いものがある。「戦争が始まりますよ」という軍の言葉と、幻影によってコロッと心変わりするなんて理論の数学者にしてはあまりにも感情的な気がする。全編的に感情の爆発ゴリ押しで映画を進めていくので、鑑賞直後は山崎貴スゴイ!となるのだが、段々と、力でゴリ押しただけだよね。となってしまうのだ。ラストに数学者が国家の犬になっていく描写も、上映時間に対して時間が足りなかったのか、巻きで進めすぎである。それでも、この映画は面白かった。山崎貴の心を知れた気がしました。
おまけ
ところで、ラストに戦艦大和の模型が置かれている場所って『カメラを止めるな!』のロケ地にもなった芦山浄水場だよね。空間配置があまりにも一緒で驚かされました。
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