【ネタバレ考察】『七つの会議』これぞ大衆映画!本作が傑作な5つのワケ

七つの会議(2019)

監督:福澤克雄
出演:野村萬斎、香川照之、及川光博、土屋太鳳、吉田羊、藤森慎吾etc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2月の再注目作品『七つの会議』を観てきました。原作は池井戸潤。テレビドラマのイメージが強い池井戸潤ものですが、『空飛ぶタイヤ』の好評によりか、第二弾が作られました。監督は、池井戸潤ものならお任せ福澤克雄監督だ。『陸王』『下町ロケット』『半沢直樹』で成功を収め、『祈りの幕が下りる時』でも映画監督として大衆から支持された監督でもある。正直、ブンブンは予告編で観た時、社会派ドラマのはずなのに、顔芸バトル映画になっているあまりの大草原加減に爆笑しました。そして、爆笑コメディとして観に行きました。オープニングから、信頼できない製作「TBS」のロゴが表示されていたこともあり、かなり舐めていたのですが…これが大傑作でした。確かに粗はあるのだけれども、これぞ理想の大衆娯楽映画だし、なおかつブラックコメディとしてよくできている。そして、社会派から逃げガチな日本映画界にとって、この映画が出てきたことが本当に素晴らしいと感じました。なんたって、今タイムリーで日本が抱える問題を風刺しており、その根元にある問題を突き詰めていく映画なのだから。これはヒットしてほしい。政治家やサラリーマンは絶対観てほしい作品でした。

今日は、『七つの会議』の素晴らしさについて5つの観点から語っていきます。ネタバレ記事なので、要注意!

『七つの会議』あらすじ


テレビドラマ化もされた池井戸潤の同名企業犯罪小説を、野村萬斎主演で映画化。中堅メーカー・東京建電の営業一課で万年係長の八角民夫は、いわゆる「ぐうたら社員」。トップセールスマンで、八角の年下である課長の坂戸からは、そのなまけぶりを叱責され、営業部長・北川誠が進める結果主義の方針の下、部員たちが必死で働く中、八角はひょうひょうとした毎日を送っていた。そんなある日、社内でパワハラ騒動が問題となり、坂戸に異動処分が下される。坂戸に代わって万年二番手に甘んじてきた原島が新しい課長として一課に着任するが、そこには想像を絶する秘密と闇が隠されていた。
※映画.com より引用

注目ポイント1:顔芸の強さがヒエラルキー

まず、なんと言ってもこの作品の面白さは、《顔芸》にあります。予告編にもあった野村萬斎と香川照之の顔芸対決はもちろん、藤森慎吾や橋爪功、北大路欣也も全力で顔芸をしています。この世界では、顔芸の強さが、出世条件になっているらしくて、『ハンター×ハンター』の念バトルのような面白さがあります。また、この作品は劇中の8割近くが会社の中で物語が展開されることで、一般人が見えなくなり、それにより強固で興醒めしない顔芸ワールドが形成されます。

しかも、この顔芸パフォーマンスが物語として良く組み込まれており、シネフィルほど騙されます。完全出オチな顔芸映画と思って観ると、次々と明らかにされる新事実に翻弄され、本作の全貌が明らかになった時、土下座したくなることでしょう。

注目ポイント2:人間の表と裏をしっかり描いている

日本映画は、特に大衆娯楽映画は、人間の表しか描かないことが多い。明らかに悪人そうな顔がいたら、最後まで悪人として描く。善人は最後まで善人として描く傾向が強い。しかしながら、本作はしっかりと人間の表と裏を描いています。正直『スリー・ビルボード』よりも上手いなと唸ってしまうほど、コロコロと様々な登場人物の裏の顔が明らかになってきます。悪人だと思ったら善人で、善人だと思ったら悪人で、悪に堕ちる際にも理由があってと、単にキャラクターチェンジをするならあまり意味のない演出なのだが、しっかりとココゾ!という時にキャラクターの別の側面を魅せてきます。誰しもが悪人にも善人にもなり、その時の立ち位置で全てが変わってしまう人間の特性をしっかりと捉えています。

注目ポイント3:予測できない物語

そして、そのツイストが予測できないドライブ感溢れる物語を生み出します。もちろん、露骨な伏線は多い。ネジの魅せ方、違和感ありありなグローブの映り込みといった露骨さはあるのだけれども、それが活きてくるのは観客が忘れた頃。何度もシーンを使いまわした、香川照之演じる北川誠部長がぶちまけたネジが、八角民夫のマスコミリークの切り札に繋がってくるとは正直驚きでした。そして露骨な伏線の裏に、別の真実も織り交ぜているところが実にスマートです。

例えば、この映画ではやたらとドーナツが強調されている。そして部長がドーナツを頬張るシーンが挿入されている。そして、やたらとそのドーナツが創業1年のドーナツ屋さんのものであることを強調する。そして下請け会社トーメイテックに、そのドーナツ屋の箱が置いてある。観客は、誰しも黒幕は部長だったのか!と思う。しかしながら、それは罠で、実はドーナツをトーメイテックに持っていったのは橋爪功演じる宮野和広社長だったことが分かり、そこから芋づる式に企業の隠蔽工作が明らかになっていく。唐突に見えるツイストではあるものの、他の伏線をぶつけあうことで、そこの粗が寧ろ面白さに昇華されていく。なかなか日本映画で観ることのできない高等テクニックなだけにウキウキしながらスクリーンに釘付けでした。

注目ポイント4:今の日本そのものを描いたブラックコメディだ

海外だとグァダニーノ版『サスペリア』のように、「ドナルド・トランプの時代だから作りました」と政治的立ち位置を表明し、社会を少しでも映画で変えていこうとすることが多い。ポリティカルコレクトネスを重視した作品も沢山作られる。しかし、一方、日本では政治に絡めるのはタブーとされているのか、なかなか反骨精神溢れる作品が出てきません。『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』のような作品が作られないこの国は割と問題だなと思っていたのですが、この作品はやってくれました!!

何と、この作品、今の日本社会を痛烈に皮肉って魅せたブラックコメディなのだ。ここ数年、日産が排ガスの測定データを改ざんしたり、神戸製鋼はまさしく本作のように素材の強度が基準を満たしていない場合でもデータを改ざんして出荷し、自動車や航空機に組み込まれていきました。そして最近、日本政府ですらデータ改ざんが横行しており、厚生労働省発表の毎月勤労統計のデータが改ざんされ、雇用改善されていないことが露呈し、世界からの信用を落としまくっている。

本作は、何故日本ではデータ改ざんや隠蔽が横行するのかを、個人レベル、企業レベル双方でしっかりと描いていく。切羽詰まった時に人が犯す嘘、縦社会のパワープレーで嘘を真に偽り、手回し、手回しで隠蔽されていく様子をじっくりと描いているのだ。恐らく、本作を観たサラリーマンの多くが、ギクリとさせられる部分も多いことでしょう。組織で生き残るために、クライアントのことを考えなくなっていく日本の病理を反映していて、ブンブンはとても嬉しくなりました。

特に、北大路欣也演じるゼノックス御前様・徳山郁夫が取り仕切る会議シーンが非常に重要で、あれだけ東京建電の隠蔽が明らかになり、リコールしようという話になっていたのに、徳山郁夫が「この会議に議事録はない!」とドヤ顔し隠蔽に加担していくスタイルは日本そのものだと感じました。よくフランスは個人主義とか言うけれども、よっぽど日本の方が個人主義で、フランスなんかよりタチの悪い利己主義なんじゃないかと思わずにはいられません。

ここまで描くとは、日本映画に未来があると思いました。

注目ポイント5:なぜなぜ分析の素晴らしいお手本だ

本作は、日本の体質による問題を《なぜなぜ分析》でもって明らかにしています。《なぜなぜ分析》とは、トヨタ生産方式の手法の一つで、問題に対して、「なぜその行動をしたのか」と問い詰めていくことで、問題の本質に辿り着ける方法です。フィンランド教育現場でも、この《なぜなぜ分析》が使われていることから、製造業や病院などで活用されている。


しかし、《なぜなぜ分析》は非常に難しい技術だ。下手すると、人に嫌悪しか抱かせない手法です。ブンブンも幼少期からこの《なぜなぜ分析》が大嫌いでした。本能的行動が多いので、そもそも「なぜ?」と訊かれても知らないことが多い。しかも、この分析は高圧的に開示したくない内面を引きずり出されるので、ヘイトが溜まります。 そして、上手くやらないと《なぜなぜ分析》で本質的な解決策は出ずに、ヘイトだけ溜まって歴史が繰り返されてしまう問題を抱えています。

『七つの会議』は、《なぜなぜ分析》が持つ長所と短所をしっかり物語に組み込んでいる作品と言えます。20年前、データ改ざんによって起きた事故。それはロクに分析されずに終わってしまった。例え、《なぜなぜ分析》を実施しても、北川誠のように恫喝でおこなってしまうことで、社員を萎縮させ、さらなる業績悪化に繋がってしまうのだ。そして今回、ネジ強度偽装が発覚した際に、八角民夫は徹底的に感情ではなく行動から分析して、偽装が起こりゆる環境の所以を突き詰めている。ノルマに追われていくうちに、クライアントという存在を見失い、前例の悪でもってノルマを達成させていく仕組みが明らかになってくるのだ。そして彼は態度で、改善策を示す。それは、気を抜くことだ。肩の気を抜いて、仕事に励むことでデータ偽装という悪の道に落ちることはない。皆、仕事に真面目になり過ぎだと彼は身体で語るのです。

《なぜなぜ分析》は何故人を嫌いにさせるのかというメカニズム、そして《なぜなぜ分析》とはこうあるべきだという見本を示してくれたという点で非常によくできていました。

最後に

いかがでしたでしょうか?個人的に、油断していたし、直前まで『メリー・ポピンズ リターンズ』を観ようか迷っていました。でも、『七つの会議』にして正解でした。『ニセコイ』を始め、残念な映画が多いイメージの強いTBSのテレビ屋の作品ではありましたが、今回は場外ホームランでブンブン大満足でした。『釣りバカ日誌』の浜崎伝助や『美味しんぼ』の山岡士郎が好きなブンブンはすっかり八角民夫のトリコになりました。

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