誰が撃ったか考えてみたか?(2017)
Did You Wonder Who Fired the Gun?
監督:トラヴィス・ウィルカーソン
評価:70点
おはようございます、チェ・ブンブンです。先日、山形国際ドキュメンタリー映画祭ラインナップが発表されました。今年は王兵の8時間ドキュメンタリー『死霊魂』、フレデリック・ワイズマンが2016年のアメリカ大統領選において最重要拠点となったインディアナ州に迫った『インディアナ州モンロヴィア』など豪華ラインナップとなっていました。その中に、以前mubiで配信されていたトラヴィス・ウィルカーソン監督の『Did You Wonder Who Fired the Gun?』が入っていたので紹介します。
『誰が撃ったか考えてみたか?』概要
監督自身の曾祖父が1946年に起こしたアラバマ州ドーサンでの黒人男性射殺事件。これまで親族の間でも隠され忘れ去られていたが、古い新聞記事を元に当時の状況を掘り起こし、自身の家族の闇にサスペンスタッチで迫る。人種差別主義者であり家族にも暴力を振るっていたこの曾祖父の、弱者に対する抑圧的人格を暴くことで、白人至上主義が当時も今も変わらず台頭する米国社会の病根を、白人である自分自身の問題として痛烈に提示する。『加速する変動』(YIDFF ’99 IC)、『殊勲十字章』(YIDFF 2011 IC特別賞)のトラヴィス・ウィルカーソン監督作品。
※山形国際ドキュメンタリー映画祭サイトより引用
『アラバマ物語』の反転
『アラバマ物語』は、絶対に勝てないと言われていた黒人擁護の裁判に立ち向かう白人弁護士アティカスの奮闘を描き、アカデミー賞3部門に輝いた。本作は、アメリカ人の心のヒーローとして長らく語り継がれた伝説である。しかし、それによって隠された真実があるのでは?第91回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた『Hale County This Morning, This Evening』が『アラバマ物語』で強烈な先入観を与えてしまったアラバマ像を覆していたのだが、この『誰が撃ったか考えてみたか?』もまた『アラバマ物語』に隠された世界を解き明かそうとする作品であった。
ブラック・ライヴズ・マター運動に参加していたトラヴィス・ウィルカーソンは曾祖父がかつて、黒人を殺し、正当防衛として隠されてしまったことを知る。半世紀以上前の事件にも関わらず、ウィルカールソン監督は真実を求め旅する様子を、写真によるモンタージュ、そして前衛的な色彩風景の中のナレーションで描いていきます。その中で冒頭とラストに『アラバマ物語』を持ってきています。まさしく、闇に葬りさられそうな黒人の事件を正義でもって救おうとするアティカスと自分を合わせ重ねているのだ。しかしながら、同時に『アラバマ物語』で象徴的に描かれた白人が黒人を救う物語は、象徴に留まってしまい、その裏に無数の問題が潜んでいるのではという批判的眼差しが込められているように見えます。実際に、本作で引用される『アラバマ物語』の法廷シーンは、赤い特殊効果が加えられていたり、白黒反転していたりします。
そして、まるで写真集のようにイカしたショットの中で、事件の真相を捉えていく様子は、凄惨な事件をアーカイブするという監督の意欲を感じさせるものがあります。日本では、山形国際ドキュメンタリー映画祭程度でしか紹介されていないトラヴィス・ウィルカーソン監督ですが、この鋭い作家性と視点は、今後も注目していく必要があると感じました。
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