シノニムズ(2019)
原題:Synonymes
英題:Synonyms
監督:ナダヴ・ラピド
出演:トム・メルシエール、カンタン・ドルメール、ルイーズ・シュヴィヨットetc
評価:50点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第69回ベルリン国際映画祭で金熊賞を獲り、カイエ・デュ・シネマが「私たちは長い間見られたフランスの最高の映画がイスラエルの監督から来ていると予想するべきですか?」と興奮しながら満点をつけた作品がフランス映画祭2019で上映!フランスの硬派な映画メディアも追随するように本作を賞賛し、リベラシオンは「この亡命と受け入れの問題を正確に捉えて、フランスというのプリズムを通してイスラエルだけでなく、国の概念に付随するすべての幻想的な構造のことが持つ所属への拒絶に対する感覚をもたらすのだ。」と評しています。そんな『シノニムズ』を観てきました。
『シノニムズ』あらすじ
パリ在住のイスラエル人・ヨアヴは、フランスに帰化しようと奮闘中。
フランスが自国の狂気から自分を救ってくれると信じて…。
他国へ移住することの難しさをシニカルにユーモアを交えて描く。
※フランス映画祭2019より引用
精神はフランス人、しかし身体は彼を離さない
本作は、イスラエルからフランスに移住したナダヴ・ラピドの自伝的作品であり、随所に彼のエピソードや彼が家族や友人から聞いた話が挿入されている。結論から言うと面白くはない。連日の疲れもあり割と眠かったのですが、祖国でのアイデンティティを殺すとはどういうことかを描いた本作の視点は非常に貴重だ。
主人公のヨアヴはイスラエルからフランスに移る。しかし、初日にして災難が降りかかる。シャワーを浴びている隙に何者かが、部屋に侵入し持ち物洗いざらい盗られてしまう。部屋は寒く家には何もない彼は助けを住人に求めるが誰も助けてくれない。そしてバスルームで凍えながら一夜を過ごす。イスラエル人としての自己を殺す通過儀礼的描写から始まるのです。
幸運にも絵を描いたような、外国人から観て裕福そうなフランス人カップルに救われたヨアヴ。カップルは、服やスマホ、金を分け与える。高級な服に着せられ、ハリボテチンケに見えるヨアヴは取り敢えずフランス人として生まれ変わります。
彼は、イスラエル人にはならないと、訪ねてくるイスラエル人とは距離を置き、いち早くフランス人になろうと貪欲になる。
彼は街を歩くのだが、départ(出発)/redépart(再出発),courir(走る)/sourire(微笑む)と似た響きの言葉を反芻していく。そして、決してヘブライ語を使おうとしないのだ。こうして、フランス人になりきろう、イスラエルのアイデンティティを捨てようとスノッブの極みを魅せていく。そして、フランスへの希望を見出していくのだが、段々と綻び、矛盾に気づき苦しむようになる。この感覚は、李良枝の『由熙』に近いものがある。『由熙』は韓国人でも日本人でもないアイデンティティの喪失感に苦しむ主人公を描いた作品で、そういったマイノリティの苦悩を次のように表現している。
ことばの杖を、目醒めた瞬間に掴めるかどうか、試されているような気がする。・・아なのか、それとも、あ、なのか。아であれば、ア・ヤ・オ・ヨ、と続いていく杖を掴むの。でも、あ、であれば、あ、い、う、え、お、と続いていく杖。けれども、아、なのか、あ、なのか、すっきりとわかった日がない。ずっとそう。ますますわからなくなっていく。杖が、掴めない。
ヨアヴも毎日《א》なのか《a》なのか、ふわふわ揺らめくことばの杖を掴もうとしているのだ。しかし、フランス社会は時として彼を傷つけてしまう。AV(?)の仕事をした際にカメラマンから、ヘブライ語で喘いで欲しいと言われ逆らえずにアナルに指を入れながらヘブライ語で官能的な言葉を叫ぶ。その時、肉体がヘブライ語でありイスラエル社会に引き戻されてしまうのだ。そして、少しずつ引き戻しによりつけられる傷が彼を狂気への道へと陥れ、彼と社会との扉は固く閉ざしてしまうのだ。
Filmarksでの評判がすこぶる悪く、個人的に長年『由熙』のような視点ある作品の登場を待ち望んでいたもののカメラワークのあざとさにゲンナリするところもあり、これは日本公開厳しいとは思うのですが、2019年、いや2010年代最重要の作品であることに間違いはない。
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