ナイフ・プラス・ハート(2018)
原題:Un couteau dans le Coeur
英題:KNIFE + HEART
監督:ヤン・ゴンザレス
出演:ヴェネッサ・パラディ、Kate Moran etc
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。今、ファンタスティック映画界隈を賑わせている監督にヤン・ゴンザレスがいます。フランスのバンドM83のアンソニー・ゴンザレスの兄である彼は、『真夜中過ぎの出会い』でカイエ・デュ・シネマ年間ベストテンに選出され、批評家の間で注目された監督です。2018年のカンヌ国際映画祭では、短編映画『アイランド』を出品した他、本作がゲテモノ映画枠としてコンペティション部門に選出されました。大学時代にポルノ映画で修士論文を書いたヤン・ゴンザレスが放つこの映画史映画を嗜んでみました。日本では既に配給決まっているようですが、間違いなくR-18作品となることでしょう。
『KNIFE + HEART』あらすじ
Paris, summer 1979. Anne is a producer of cheap gay porn. When Lois, her editor and companion, leaves her, she attempts to get her back by making a more ambitious film with the flamboyant Archibald.
訳:パリ、1979年夏。アンは安いゲイポルノのプロデューサーです。彼女の編集者でありコンパニオンであるロイスが彼女を去るとき、彼女は華麗なアーチボルドでより野心的な映画を作ることによって彼女を取り戻そうとします。
※imdbより引用
仮面の告白
本作は舞台が1979年となっており、女性の官能映画作家の話ということで明らかにマリー=クロード・トレユーが『シモーヌ・バルベス、あるいは淑徳』を撮影した頃と重なるところがあります。そして、彼は官能映画が盛んに作られた1970年代に存在した社会批判のための官能映画の存在を映画の中でチラつかせている。官能映画は、日本でもそうだが、官能という後ろ盾を武器に社会批判を行なっていた。『(秘)色情めす市場』、『天使の恍惚』のように。本作では、ゲイコミュニティにフォーカスを当てることで、社会から外れてしまった同性愛者が、居場所を見つけるツールとして官能映画があったことが分かる。そして映画の中で本筋と関係があるような内容な浮遊感で漂う仮面の殺人者は、同性愛者を唐突に抹殺する《社会》を象徴しているように見えてきます。また、この仮面はもう一つの《顔》を持つ。それは官能映画を撮る側の表情だ。撮影監督は、何かしらの理由を持って官能映画を撮ることに言い訳を作ろうとしている。しかし、そこには「見たい」という欲望がある。それを強調するかのように、主人公の監督は、穴から覗き見をしたり、強烈な悪夢に溺れてみたりするのだ。
そこに映る、見る見られるの関係性をヤン・ゴンザレス監督は、フランスゲイポルノの専門家であるHervéJoseph Lebrunと共に調査した、膨大なポルノ映画史の断片を切り貼りすることで、圧倒的な美が生まれてくる。ゲテモノアート系にありがちなただただ過激さを突きつける感じではなく、アカデミックな演出であることがフランスポルノ映画ど素人のブンブンでも感じ取ることができます。例えば、70年代のフィルムのざらつきであったり、行為に及ぶまでのシチュエーションに対する拘りであったりします。
実際にフランスの映画メディアのインタビュー記事を読むと、ことの手のゲテモノ映画、一昔前であればポルノ映画館やグラインドハウスで上映されるような作品がカンヌ国際映画祭のコンペティションに呼ばれることに対して喜ぶ一方、ジャンル映画として捉えられてしまう状況や、これによって失ってしまう同性愛のある一面に対して彼は警戒していると語っています。それだけ、彼の隠れた映画史に対する情熱は熱く、容易に読み解くことを許さない本作の魔力にすっかり魅せられてしまいました。
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