【ネタバレ】『ツーリスト』ドナースマルクが8年も映画製作できなくなった黒歴史

ツーリスト(2010)
The Tourist

監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演:ジョニー・デップ、アンジェリーナ・ジョリー、ポール・ベタニー、ティモシー・ダルトンetc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

今週末、ブンブンは第91回アカデミー賞外国語映画賞外国語映画賞&撮影賞にWノミネートされた『NEVER LOOK AWAY』を観ます。この作品はあのフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク8年ぶりに製作した3時間に及ぶ渾身の歴史映画です。彼は初長編映画『善き人のためのソナタ』でいきなりアカデミー賞外国語映画賞を受賞した監督なのですが、長編2作目にあたる『ツーリスト』で大失敗をしてしまったため、8年間も映画が撮れなくなってしまった不遇の監督です。

『ツーリスト』とは、ソフィー・マルソー主演映画『Anthony Zimmer』のリメイクですが、製作時から問題を多く抱えていました。主演予定のトム・クルーズ、シャーリーズ・セロンが降板し、次の主演候補であるサム・ワーシントンも降板。監督も降板してしまい、ドロドロぐちゃぐちゃになってしまったプロジェクトに対し、白羽の矢が立ってしまったのがフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクでした。しかし、結果としては、当時のライムスター宇多丸が「ハリウッドでも『アマルフィ』は作られてしまう」と酷評するほどのものであった。興行収入面でも、批評家、観客評でも失敗した。それだけならいいものの、ゴールデングローブ賞にノミネートする為に、パーティ接待を行い、『トゥルー・グリット』を差し置いて作品賞、主演男優賞、主演女優賞にノミネートされたことが明るみに出てドナースマルク監督は完全に業界から干されてしまった。さて、そんな『ツーリスト』を今回鑑賞してみました。

『ツーリス』あらすじ


ハリウッドを代表するトップスター、ジョニー・デップとアンジェリーナ・ジョリーの初共演が実現したロマンチック・ミステリー。イタリアを訪れたアメリカ人旅行者が、謎の美女に翻弄(ほんろう)され、知らないうちに巨大な事件と陰謀に巻き込まれていく。監督は、『善き人のためのソナタ』のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク。共演はポール・ベタニー。撮影地であるベニスやパリの美しい映像や大胆なラブシーンも見ものだ。
映画.comより引用

とんだギャグ映画でした

これが1週回って面白かった。なんたって、あまりにもバカバカしいのだ。

まず、アンジェリーナ・ジョリー演じるエリーズを捕獲しようと、警察官が見張っているのですが、明らかにバレバレな程至近距離で監視していて、尚且つ白昼堂々容疑者を捕まえ始める。またエリーズは謎の男ピアースからの手紙を証拠隠滅の為に燃やすのだが、カフェのテラスで堂々と燃やし始めるのだ。そして、ピアースからの指示でツーリストをピアースに見せかけ巻き込むことで警察を錯乱しようとするのだが、相手がジョニー・デップ。数学教師とのことだが、明らかに怪しさ満点。なんなら魔性の女であるエリーズを食ってしまっているのだ。

そこから、コミカルな巻き込まれサスペンスが始まるのだが、『パイレーツ・オブ・カリビアン』かい?と思うほどジョニー・デップのコミカルな演技が、サスペンスとしてのハラハラドキドキ感を片っ端から破壊していく。また、アメリカ人はイタリア語とスペイン語の区別がつかないというギャグがいちいちワザとらしく、さらに「Buon Giorno!」を「Bon Jovi?」という寒すぎるギャグが一周回って滑稽に見えてしまいます。

そして、驚愕したのはラストです。金庫をエリーズがロシアマフィアに脅されて開ける場面。登場するはずのピアースが来ないので、本当に殺されそうになる中、ジョニー・デップが意を決してロシアマフィアの元へ行く。そして「俺がピアースだ」と言い始め、金庫を開けようとする。すると、警察官がスナイパーを発砲し、マフィアを皆殺しにするのだ。あまりのマフィアの弱さにびっくりするのだが、なんとジョニー・デップが「俺が本物のピアース」だよと語り始めるのです。

観客は、えっと映画を振り返るのだが、素顔不明な男という設定なのにあまりに白昼堂々動きすぎだし、わざわざアンジェリーナ・ジョリーや警察官に翻弄されて金庫に向かうメリットが全然わかりません。ヒッチコック的巻き込まれ型アドベンチャーをやりたいのであれば、ピアースはマクガフィンとして機能させるべきだ。これは単に主役がジョニー・デップだから、最後にアンジェリーナ・ジョリーと結ばせる為にだけある演出にしか見えないのだ。

結局のところ空中分解しかしていない、本作は中途半端さが前面に現れる作品でした。ただ、ブンブンはこの映画嫌いにはなれない。だから、『NEVER LOOK AWAY』日本公開時には全力で『ツーリスト』も推していきたい。

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