【ネタバレ】『ツイン・ピークス The Return』実は『君の名は。』はアメリカで既に実写化されていた件

ツイン・ピークス The Return(2017)
Twin Peaks The Return

製作総指揮:マーク・フロスト、デイヴィッド・リンチ、Sabrina S. Sutherland
出演:カイル・マクラクラン、デヴィッド・リンチetc

評価:採点不能

おはようございます、チェ・ブンブンです。

カイエ・デュ・シネマ ベストテン2017年で1位に輝いたのはまさかのテレビドラマだった。その名も『ツイン・ピークス The Return』。カルト映画の巨匠デヴィッド・リンチが製作した伝説的ドラマ25年ぶりの新作だ。本作は、政治的立ち回りを頑張り、製作会社に指一本触れさせない状況を創り上げたデヴィッド・リンチが相方マーク・フロストと共に、グダグダになってしまったシーズン2から新世界を創り上げた内容。放送されるや否や、常軌を逸した展開の連続に賛否が真っ二つに別れた作品である。

ドラマシリーズが大の苦手で、映画版『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』に全くハマらなかったブンブンですが、ここは意を決して第1シーズンから通して完走してみました。正直、第2シーズンまではデヴィッド・リンチ好きなブンブンでも海外ドラマの癖に拒絶反応を示してしまい、Not for meだったのですが、この第3シーズンが大大大傑作でした。そして、先日『(500)日のサマー』のマーク・ウェブ監督が実写版『君の名は。』を製作すると決まりましたが、何のこれしきデヴィッド・リンチは『ツイン・ピークス The Return』で『君の名は。』の実写化に成功していました(日本版ブルーレイの最終話タイトルは『君の名前は?』です。嘘ではありません)。

ただ、この記事を書くまで1ヶ月を要しました。というのも、あまりに衝撃的すぎて、鑑賞してから長らく全くペンが進まなかったのです。本記事はネタバレ記事ではありますが、未見の方には何を言っているのかが分からないと思います。しかし、これは実際にブンブンの目の前で起きたことなのです。というわけで、本作の魅力及び、ブンブンの解釈について語っていきます。

映画でもドラマシリーズでもない異次元

海外ドラマは、単に時間的制約のない映画だ。という先入観に対してデヴィッド・リンチは真っ向から「否」と答えてきた。毎回前衛的で、「俺が法だ」と言わんばかりのリンチワールドに飲み込まれる快楽を観客に与えてきたデヴィッド・リンチだが、もはや彼の世界は「映画」や「海外」ドラマという枠組みからも飛び出してしまった。ゴダールが必死に、芸術を粉砕して再構築することで新しい表現を見出していたのを嘲笑うかのように軽々と「未来(否、この世界のものではない何かだろう)」を魅せてきたのだ。

第2シーズン。グダグダ中だるみが激しくなり、嫌気がさしたのか、赤い部屋でクーパー捜査官の魂が乗っ取られ、悪いクーパーが現実世界に出現したところで終わらせる超展開グランドフィナーレを迎えた。赤い部屋でローラ・パーマーが「25年後にまたお目にかかる」と言ってから、本当に25年後の世界から本作は始まる。第2シーズンまで謎の田舎町《ツイン・ピークス》が舞台だったのに、今回はアメリカ各地に舞台が拡散している。

謎のガラス箱を観察する青年が謎の物体に襲われる衝撃展開から物語は始まる。まるでローラ・パーマーなんかどうでもいいと言わんばかりに、全く違う話が展開される。そして、次第にこの25年間悪いクーパーはヤクザとして現実世界で幅をきかせていたことが分かる。それに対して、赤い部屋に閉じ込められた本物のクーパーは「私は腕だ」と言い張る木のモンスターの助言で、悪いクーパーを撃退しに現世へ降り立とうとするのだ。

しかしながら、悪いクーパーは異世界から身体を乗っ取ろうとする本物のクーパーを気合いで押し返してしまう。宇宙空間に飛び出た本物のクーパー、テレビが故障したのかと疑う程バグった世界の中で出口を探し、不倫絶好調、セックス後の瀧くん(ダギー・ジョーンズ)の身体を乗っ取るのだ。そしてダギーは赤い部屋に転送され、金玉にされてしまう。

ダギーの身体を強奪したは良いものの、記憶を失ったクーパーはシーズンの大半を使って、歩いているだけなのに大金持ちとなり、会社で成功を収め、FBIに狙われるにまで成長していくハル・アシュビー監督作『チャンス』さながらの物語を繰り広げていく。一方、悪いクーパーは今まで通り暴れ散らす。互いにずっと何かを探している、、、心と身体が入れ替わった者達は…まさにリンチ版『君の名は。』である。

全く交わることのない、ドッペルゲンガー同士の日々が映し出され、そして突如1話丸ごと物語0理解不能な実験映画というなのディープインパクトが観客に襲いかかる。そして動くフランシス・ベーコン足る世界を魅せる。次々と巻き起こる超常現象にブンブンの脳は麻痺し、本物のクーパーが正気を取り戻した時、感動し涙した。そして、驚愕の絶叫エンディングに発狂してしまった。

1話丸ごと、言葉で表現することができないヴィジュアルの洪水だけのドラマがかつてあっただろうか?そして、シュールとか前衛的で使い古された表現だが、ここまで観ていて面白い前衛的な作品はかつて存在していただろうか。前2シーズンとは違い、今回はデヴィッド・リンチ×マーク・フロストの独裁国家だ。結論まで1本の道ができている。3歩進んで2歩下がる遅々として進まない物語なのだが、観る人は感じる。「間違いなく、これはどこかに向かっている」と。

そして、こう悟る。「謎解きをしてはいけない」と。

映画評論家や考察系ブロガーはこの作品について謎解きをしたくなることでしょう。実際に前半、無数にも及ぶヒントが散りばめられているのだ。数字、クリーチャー、暗号、次々と現れる登場人物に前シリーズからの伏線回収etc。しかし、それを解き明かすのは底なし沼に堕ちるということ。ブンブンは、もはやこの作品について深く考えることを強制的に諦めさせられました。

ただ言えるのは、これがデヴィッド・リンチ集大成だということだ。

短編映画『アルファベット』を主軸にしたような超展開、『マルホランド・ドライブ』さながらの映画の引用や謎のライブシーンに絡み合う二つの人生。『ストレイト・ストーリー』を思わせるゆっくりとしたユーモアに『インランド・エンパイア』の混沌。デヴィッド・リンチ好きが涙する、リンチ映画の甘い蜜を18時間にぎゅっと濃縮している。これを観てリンチファンが発狂しない訳がありません。

結局のところ、どんな作品だったの?と言われてもさっぱり分かりません。第3シーズンから観ても大丈夫?と訊かれても、「別に第3シーズンから観てもいいし、でも第1シーズンから頑張って観てほしい」と曖昧な答えしか出せない。

詰まる所、この『ツイン・ピークス The Return』は観た人にしか分からない世界が広がっていました。

どうです、ここまで3,000字くらいかかっているが、何一つ分からなかったことでしょう。あの町山智浩やライムスター宇多丸、高橋ヨシキですらラジオで語ってもさっぱり全貌が見えてこなかったのだから、ある意味当然の結果かもしれない。

とにかく、この作品は一生に一度でいいから挑戦してみてほしい。例えドラマシリーズが苦手でも、あまりに次元の違う世界に魂が奪われ、暫く何を観ても何も感じないまでに打ちのめされることでしょう。とにかく凄かった…



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