『孤狼の血』遠いようで近い県警対組織暴力の世界

孤狼の血(2018)

監督:白石和彌
出演:役所広司、松坂桃李、真木よう子、滝藤賢一etc

評価:60点

白石和彌最新ヤクザ映画がえらく評判が良い。なんと女性作家・柚月裕子が書いた同名ヤクザ汚職警官小説の映画化とのこと。果たして…

『孤狼の血』あらすじ

昭和63年、尾谷組と加古村組の抗争が勃発。警察署では、暴力団摘発の機会を伺っていた。そんな中、新米警官・日岡秀一はベテラン刑事・大上章吾とコンビを組む。しかし、彼には暴力団との癒着が噂されていた。そして、彼と行動を共にすればする程、法を破りヤクザ以上に凶悪な大上章吾が許せなくなっていき…

これは誰にでも起こる物語

日本で一番悪い奴ら

』で実話の仮面を被った『県警対組織暴力

』を魅せた白石和彌が、またしてもヤクザ映画愛を魅せてくれた。

しかし、今回は確実に白石監督独自の色を出し切った。食後すぐに観たら、マーライオンしそうな程の凄惨なシーンから幕を開ける。そして、『仁義なき戦い』ばりのナレーションオープニング。白石監督キレッキレである。

そして、繰り広げられるのは、誰かが言及していたが、『トレーニング・デイ』。己の正義を押し通すため、ありとあらゆる犯罪を犯す役所広司扮する刑事に、松坂桃李扮する後輩刑事の正義観がグラグラに揺れ動かされるという内容。

誰しもが、新しく組織に入ると、自分の倫理観と組織の間にあるギャップに悩まされる。妥協するのか否か?例え間違っていて、反発しようとも抗えない。そして一線を超えてしまう生々しさ。これが恐怖のアクセントとなっている。本作はヤクザ映画だが、決して他人事ではない。誰しもが自分の身に降りかかる問題を扱っているのだ。そして、常に罵声を浴びせる役所広司先輩刑事の熱いラスト。観客は今まで、彼にフラストレーションしか溜まらなかったろうものが血と涙のカタルシスによって見事成仏される。満足げに帰路につき、ふと思い返す。そして自分の腹を見る。ナイフが刺さっており、ドクドクと熱い紅が溢れていることに気づく。そう、貴方の倫理観は役所広司によって壊されていたことに。

ヤクザ映画そんなに得意ではないので、そこまで乗れなかったが、誰しもが経験する個人対組織の軋轢を重厚に描いた。そして、容赦ない暴力描写にトキオリギャグを咬ます手数と余裕を魅せている。はっきり言って最近の北野武より遥か上だ。

間違いなく白石監督腕を上げた。このままイケイケドンドン突き進んでくれ!応援してます。

唯一の不満点

本作は、非常にレベルの高いヤクザ映画ではあるのだが、惜しいところがある。それは松坂桃李の血糊メイクの甘さだ。強烈な暴力により、松坂桃李扮する新米警官がズタボロになるのだが、どうも綺麗すぎるのだ。血糊の色が明るく、人の血に見えない。折角こだわりの色彩で描いているのだがら、そこも徹底して描いて欲しかった。

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