ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書(2017)
THE POST(2017)
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:トム・ハンクス、メリル・ストリープ、
サラ・ポールソンetc
評価:90点
スティーヴン・スピルバーグが『レディ・プレイヤー1』制作中にも関わらず、「今作らねば!」と思い立ち同時進行で作った作品『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』がいよいよ日本でお披露目となった。町山智浩曰く、演技指導を一切せず、メリル・ストリープやトム・ハンクスに思い思いの演技をさせたトンデモ映画らしい。『ペンタゴン・ペーパーズ』が堅物映画誌カイエデュシネマで満点!
「心躍るような、何度も語る価値のある作品。責任の尺度と我々ができることについて考えよう!」と絶賛しています。
『夜の浜辺でひとり』と並びベストテン入りは堅いです。 pic.twitter.com/e1fhscN3iO
— che bunbun (@routemopsy) 2018年3月22日
また、AlloCinéによると『スリー・ビルボード』、『シェイプ・オブ・ウォーター』をはじめ、アカデミー賞関連作品を片っ端から酷評している堅物映画誌カイエ・デュ・シネマがなんと満点をつけているのだ。「心躍るような、何度も語る価値のある作品。責任の尺度と我々ができることについて考えよう!」とのこと。
『大統領の陰謀』『ザ・シークレットマン』『フォッグ・オブ・ウォー』と関連作を観て、入念に鑑賞体制を整え、いざ映画館で刮目してきました。こっこれはなんなんだ!!!!
『ペンタゴン・ペーパーズ』あらすじ
時は1971年。ニューヨーク・タイムズがベトナム戦争についての機密文書《ペンタゴン・ペーパーズ》の存在をスクープする。ライバル誌であるワシントン・ポストのトニー・ブラッドリーはなんとかしてニューヨーク・タイムズを出し抜こうと躍起になっていた。一方、ワシントン・ポストの社主に就任した女性キャサリン・グラハムは思い悩んでいた。政治や経済に詳しくないのにいきなり社主になった為、会議についていけない。また、社交界に友人が沢山いるにも関わらず、今会社内でその友人の顔に泥を塗る記事が作られていること。彼女は正義と世間体の狭間で思い悩んでいた…
歌のないオペラ!メリル・ストリープの演技に震えろ!
本作は、スピルバーグが『レディ・プレイヤー1』制作の合間に無理矢理作っただけあって渾身の作品であった。真面目で難解な政治ものと敬遠してしまいそうだが、そんな不安はどこ吹く風。極上のエンタテイメントとなっていた。
本作はたった2時間という短い時間の中に、2つの大きな話がねじ込まれている。1つはウォーター・ゲート事件をスクープする前のワシントン・ポストで起こる情報戦。2つ目は、社主になった女性グラハムの成長譚だ。
まず、前者について。ウォーター・ゲート事件以前のワシントン・ポストは窮地に立たされていた。新しい社主が女性ということで、なかなか出資が集まらない。特ダネを全然ゲットできず凡庸な記事ばかり発信してしまっている。沈没するタイタニック号のようにピンチであった。そんな中、ニューヨーク・タイムズが、ロバート・ストレンジ・マクナマラ国防長官が、ベトナム戦争は負け戦だということをひた隠しにしていたことが分かる《ペンタゴン・ペーパーズ》の存在をスクープする。辛酸を舐めるワシントン・ポストのベン・ブラッドリーは、なんとかしてニューヨーク・タイムズを出し抜こうとスパイを送り込んだりする。
確かに、予習していた方が分かりやすいが、『大統領の陰謀』以上にサラリーマンの映画として、そしてサスペンスとして徹底的に盛り上げる。本作には無駄なシーンが一切なく、もはやミュージカルなのではないかというほど役者がキレッキレの動きをする。それだけに、例えばニューヨーク・タイムズにスパイを送り込むシーン。これが観ていてとてもドキドキする。「バレてしまうのでは?」という緊迫感が画面を包むのだ。
『大統領の陰謀』を意識した作品に、『スポットライト』があるが、あんなの比べ物にならないほどエンタテイメントと史実のバランスが取れた作りになっていた。
このメインストーリーの裏側で、今度は女性社主グラハムの葛藤が描かれる。グラハムを演じるのはアカデミー賞通算21回ノミネート3度受賞の名女優メリル・ストリープ。最近は演技が凄すぎて別に女優賞を与える程では…と感覚が麻痺しているのだが、今回はそんなメリル・ストリープがめちゃくちゃ輝いていた。これは女優賞を与えたいと思う程だ。
彼女は成り上がりで社主につくが、政治や経済なんてものはさっぱり分からない。なので会議には猛勉強し、付け刃のカンペを用意して臨む。しかし、役員は彼女の無能っぷりを分かっているため、誰も話を聞いてくれない。発言の機会があっても、それは想定外の質問だったりするので答えられない。この辛酸を舐めるような思いを、表情だけでメリル・ストリープは魅せるのだ。口から出る言葉のほとんどは本心ではない。苦しい気持ちは全て表情と身振りだけで演出される。その迫真の演技は、もはやオペラと言っても過言ではない。そう、本作は先述の通りミュージカルのような動きをすることから「音楽のないオペラ」と言える。
世間体と会社内部との狭間で自分の意志を決められずにいるグラハムが、段々と立派な社主になっていく所には胸が熱くなる。
最後に…
本作を観て思ったのは、ひょっとしてスピルバーグは日本の為に本作を作ったのでは?と思ったことだ。今、日本では学校法人森友学園問題から芋づる式に、政府の機密文書捏造が明らかにされている。政府は、ありとあらゆる手で嘘をつき、世論をコントロールしようとしている。それをジャーナリストたちはあらゆる手を使って阻止しようとしている。なので日本人は皆観た方が良い。決して昔の話ではない。今、それも日本で起きていることを描いているのだから。
そして本当は100点をつけたかったのだが、ここでは90点とした。
NOT YET(トム・ハンクスっぽく)!
実は今月、スピルバーグのトンデモ新作『レディ・プレイヤー1』が公開されるのだがら。デロリアンからガンダムまで、映画オタクが好きなものを全てねじ込んだ作品だ。予告編を観ると、完全に『ソード・アート・オンライン』なのだが、きっとスピルバーグはホームランを放ってくれる。
こりゃ楽しみですな!
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