サファリ(2016)
SAFARI(2016)
監督:ウルリヒ・ザイドル
評価:80点
家でモンスターハンターに明け暮れている諸君、今東京都内でマジなモンスターハンターを観られることをご存知だろうか?
ウルリヒ・ザイドルとは?
オーストリア出身の監督。日本では2014年に『パラダイス』三部作で注目を集め、第二のハネケとも言われた鬱映画の鬼才だ。しかし、実はドキュメンタリー作家であり、『予測された喪失』では山形国際ドキュメンタリー映画祭優秀賞している。ウルリヒ・ザイドルの名が日本で広まっても、彼のドキュメンタリーは一向に公開することなかった(2014年にオーストリア人の地下室事情を追った“In the Basement(Im Keller)”が制作されているが日本未公開)。今回の『サファリ』はウルリヒ・ザイドルのドキュメンタリー日本初上陸と言っても過言ではない。
『サファリ』概要
アフリカでは富裕層向けトロフィーハンティングが観光ビジネスとして発達している。動物の希少度によって、金額は異なり、富裕層は倒した動物と写真撮影したり、首を持ち帰ったりしている。彼らが1週間で使う金額は、一般人が2ヶ月の観光で使う金額にも及ぶ。本ドキュメンタリーは、そのトロフィーハンティングの内情に迫る。一狩り行こうぜ!
本作では、アフリカにハンティングに訪れた富裕層のハンティングバカンスを描いている。まるで『白鯨』のエイハブ船長のように、野生動物のハンティングに取り憑かれている様子が生々しく描かれる。
「だって合法だし…」「”殺した”とは言ってほしくない。”仕留めた”と言ってくれ給え」「病気の動物を狩ることは、生態系維持に貢献している」「俺らの1週間で使う金は、この国に来る観光客の2ヶ月分に相当する。だからこれは社会貢献なんだ」などとカメラに言い訳をしつつ、狩りに励む富裕層。このシャープな切り口、ハンティングの哲学はモンハンでは得ることができないだろう。
そして、肝心なハンティングシーン。モンハンでは、如何にモンスターを切り刻むかに命を捧げるが、こちらは一発の銃弾で、如何にモンスターを傷つけず倒すのかに命を捧げる。まるで、弓道のような刹那の静けさ、そして放たれる重い一撃に痺れる。カッコイイと。
ただ、ここからが問題。ウルリヒ・ザイドルはとっても優しいお方なので、素材の剝ぎ取りのシーンをA to Zも魅せてくれるのだ。
特にキリンの解体ショーには力を入れており、「生肉」「キリンの皮」「キリンのたてがみ」などといった部位一つ一つ剝ぎ取られる様子を5分近くかけて魅せてくれる。(キリンの皮が厚いことに驚かされるだろう)
そして、現地民がお零れを飯として貰い、貪り喰うシーンを観て私はハッとした。俺は現実世界でハンターになれないと。
この映画では、『パラダイス 愛』に引き続き、富裕層と現地民の見えざる闇を描いていた。ただし、非常に意地悪なやり方で。何と言っても、本作に登場するアフリカの現地民は全く喋らないのだ。トロフィーハンティング批判の映画ならば、通常搾取される側のアフリカ人にマイクを向けるものだ。しかし、それがない。饒舌に言い訳をする白人富裕層の声のみが収録されているのだ。これが何を意味するのか?そこは、是非とも『パラダイス 愛』を続けて観て考えて欲しい。この映画では、アフリカ人の沈黙が非常に重要だったことがわかるであろう。
サニーフィルムさんへのお礼
本作は一般受けはまずしない。ブンブンの行った回も当然ながらお客さんは2〜3割程度だった。イメージフォーラムに、本作品の配給担当であるサニーフィルムの有田さんの想いが込められた紙が置いてあった。マスコミ試写会を行なっても15人程しか集まらず、試写会を幾つか重ねても手応えを感じつ、おまけにゲストからは意図した感想が返ってこず悩みに悩んだそうだ。
しかし、本作は面白かった。何が正しいかどうか云々よりも、この映画を通じて自分の世界が広がった。ここが非常に重要な作品だ。なので、命がけで本作を配給してくださったサニーフィルムに感謝を言いたい。
サニーフィルムの過去配給作品をみると『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやってきた』や『シリア・モナムール』といったコアなドキュメンタリー作品を中心に配給しているようだ。今後、サニーフィルム作品を見つけたら、注目するようにしよう。
ウルリヒ・ザイドル映画レビュー
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