【ネタバレ解説】『ライオンは今夜死ぬ』諏訪敦彦のラブレターに隠されたメッセージとは?

『ライオンは今夜死ぬ』ネタバレ解説

『ライオンは今夜死ぬ』あらすじ

南フランスのラ・シオタ。映画俳優のジャンは撮影が延期になったのをいいことに、昔好きだった女の家を巡ることにする。そしてやがて辿り着いた古い屋敷。約40年前に好きだったジュリエットはもう死んでいた。哀しみに暮れるジャンの前に幽霊としてジュリエットが現れる…一方、その頃映画撮影に夢中な子供達もその古屋敷にやってきていて…

諏訪敦彦のラブレター

ブンブンはこの映画を楽しみにしていた。ではブンブンは、諏訪敦彦映画が好きなのか?この問いには、胸を張ってYESとは言えない。『2/デュオ』や『M/OTHER』、『ユキとニナ』でやっていることはゴダールかぶれの映画破壊に過ぎないし、フィリップ・ガレルやジャン・ユスターシュの真似事の域を出ていない。

諏訪敦彦の映画作りの姿勢は、河瀬直美と似ているものがある。フランスかぶれで、日本の映画業界を敵に回し、海外逃亡している感じがまさしくそうだ。諏訪敦彦の場合、アラン・レネ『二十四時間の情事』のリメイク『H story』を監督した際に日本の映画関係者と揉めに揉め、日本では映画が撮れない監督となってしまった。それで文化庁の助成金を利用し、フランスに渡る。フランスで製作した『不完全なふたり』が本国で大ヒットし、2006年カイエ・デュ・シネマベストテンにおいて5位にランクインする快挙を成し遂げた。しかし、『ユキとニナ』ではフランスのスタッフと揉めに揉め、フランスでも映画が作れなくなってしまった。

今回は、ジャン=ピエール・レオのオファーにより実現した企画。あのトリュフォー映画の彼が諏訪監督を救ったのだ。この千載一遇のチャンスを、彼はラブレターという形で見事な映画に仕上げた。ただ、Filmarksでの評を読むと、「よくわからない」という声が幾つかあった。また、本作終了後の劇場の様子は、一部で拍手が起こるものの、恵比寿系マダムと思われる方々が口々に「あれはなんだったんだろう」という困惑の言葉を口にしていた。

ってことで、今回は、本作の見どころを解説していきます。もちろんネタバレ全開記事なので、ご覧になった後、謎解きとしてこの記事をお読みください。

1.本作のテーマ

本作は、前半でジャン=ピエール・レオが「死とは出会いだ!」と語っている通り、死への邂逅の物語である。

レオは、昔の女を巡る旅の末に古屋敷に辿り着く。そこで、約40年前好きだった女ジュリエットの死と対峙する。そして、死の存在として現れるジュリエットの霊に直面する。また同時に、わんぱく盛り、死とは程遠い生の存在である映画制作中の子どもたちとも対面するのだ。

子どもにはジュリエットの霊は見えない。ただ、子どもたちはレオの語るゴースト・ストーリーに惹かれ、一緒に映画を撮ろうと決意する。

このことから、レオは死に囚われた過去の思い出を、生の存在に受け渡すことで成仏しようとしているのだ。まさに多くの監督が自分の苦い思い出を映画にすることで浄化することをメタ的に組み込んだ作品と言える。

誰しも辛い思い出というのは、その時期において一度死んでいる。一度死んだ時の思い出はある巡り合わせでもって自分の心の表面に浮かび上がってくるものである。それをどう成仏するのかを本作は教えて暮れる。諏訪監督が映画人生通して味わった辛酸をたっぷりと含ませ、尚且つ美しい映画に昇華させたのだ。

2.『フォースの覚醒』と『最後のジェダイ』がぶつかる映画

本作を観ると、観客はジャン=ピエール・レオの朽ち果てた姿にお口アングリーバードとなるであろう。この感覚は『スター・ウォーズ/フォースの覚醒

』でのマーク・ハミルに近い。

前半20分、ジャン=ピエール・レオが老体に鞭打ちながら歩き、昔の女に会う。いたたまれない。これがあまりに美しい晴天の青と、陽光に照らされる植物の緑によるコントラストの真ん中で映されるもんだから発狂必至だ。

そして、ジャン=ピエール・レオは「死とは出会いだ」と宣言する。この映画を端的に表すこの台詞が物語として機能してから、ジャン=ピエール・レオは『スター・ウォーズ/最後のジェダイ

』のマーク・ハミル同様、観客興奮必至の無双モードへと突入する。

そう、この映画は『フォースの覚醒』と『最後のジェダイ』のマーク・ハミルに対する驚きと同等の映画体験を味わうことができるのだ。

3.舞台がラ・シオタな訳とは?


本作の舞台は、南仏ラ・シオタ。1895年にリュミエール兄弟が制作した世界最古の映画の一つ『ラ・シオタ駅への列車の到着』の舞台でもある。映画の街で、フランス映画を支えた名優ジャン=ピエール・レオを主演に、映画作りをする。いかに本作が映画に、フランスに愛を捧げているのかがよく分かります。

それも子どもが映画を制作する話にすることによって、大人から子どもへ映画愛を伝承する物語となる。諏訪監督がいかに映画が好きなのかがよく分かりますね。

4.諏訪敦彦流「鏡」の作法

諏訪敦彦は「見る、見られる」の関係やメタ演出が相当好きな為か、「鏡」を使った魔法を魅せてくる。例えば、『2/デュオ』における西島秀俊扮する落ち目の役者がカノジョに「結婚してください」というシーン。カメラは西島秀俊の背後から移しているのだが、右側奥の黒い壁が鏡のように反射し、西島秀俊の顔が不気味に浮かび上がってくる。

本作では非常に鏡を使ったトリッキーな演出が多い。例えば、ジュリエッタがレオに語りかける場面。通常の映画であれば、レオの顔とジュリエッタの顔を交互に映して会話感を出すのだが、本作は、合わせ鏡でもって、ジュリエッタとレオ、そしてレオの後ろ姿を同時に撮ってしまうのだ。このシーンが非常に画としても美しく綺麗だ。

また、レオが幽霊と対話する謎の男役として演技をする場面。レオの後ろに鏡を配置することで、子どもたちの演技も同時に観られる仕組みとなっている。そんなことをやらなくても、カットを割ってしまえば済んでしまうものを諏訪監督は手間暇かけて、できるだけカットを割らないようにしているのだ。

5.長回し即興の演出に注目せよ!

では、何故、諏訪監督はカットを割らないようにするのか?それはレオと子どもたちが織りなす即興の世界を壊したくなかったからと言えます。

特に、『4.諏訪敦彦流「鏡」の作法』でも語ったレオが幽霊と対話する謎の男役として演技をする場面。5分近い長回しで、子どもたちがテイク2までレオと相談しながら撮っていくのだが、あの子どもたちが「スタート」と言ってから「カット」と言うまでの緊張感は、ワンカットでないと出せない。しかも、レオも子どもたちも実際に何をしでかすか分からないからこそ、ここでの長回しは意味を成している。

6.ヌーヴェルヴァーグへのオマージュの数々

本作は、ヌーヴェルヴァーグへのオマージュも隠されています。例えば、古屋敷の風貌は、まさしくジャック・リヴェット『セリーヌとジュリーは舟でゆく

』の不思議な家そのものだ。

そして、レオが去った後、子どもたちが屋敷をうろつき、引越し業者に「ここに住んでいるおじさんはどこ?」と訊くシーンの構図が、フランソワ・トリュフォー『家庭

』を意識したものだったりする。

ジャン=ピエール・レオが即興的に演技する様を、カメラが全てをコントロールすることを諦めたかのように捉える様子は、『アウトワン

』譲りだったりする。

そもそも、映画が放つ色彩はゴダールそのもの。『気狂いピエロ』や『軽蔑

』を意識した色彩で本作は撮られているのだ。

7.少年が観るライオンの意味

本作、終盤映画制作チームの一人がライオンを見つける。どうやら周りの人にはそのライオンは見えていない。

これは、レオが中盤でその少年から「死んだ父に会いたい」と相談を受けていることから、父がライオンに変身して少年の目の前に現れていることが分かる。何故ライオンなのか?レオの前に現れるジュリエッタが若い状態であることから、その人の心に描いた姿で幽霊は現れることを強調していると捉えることができる。なので、少年は直前に、皆で「Le lion est mort ce soir」を歌っているので、死んだ父とライオンが結びついて具現化したと考えることができるのだ。

8.『ユキとニナ』のノエ・サンピも出演

レオが階段で黄昏ていると、ユキという女の子が心配そうに語りかけてくるシーンがある。実はあのユキは『ユキとニナ』のユキと同一人物である。『ユキとニナ』でユキ役を演じたノエ・サンピの8年後がスクリーンに映っていたのだ。IMDbで調べてみたところ、ノエ・サンピは2012年にJe suis une ville endormieというテレビ映画ぐらいしか出ていなかったとのこと。久しぶりの再会に熱くなった。

9.『ライオンは今夜死ぬ』のタイトルに隠された遊び心

タイトルの『ライオンは今夜死ぬ』はThe Tokensのヒット曲『ライオンは寝ている(The Lion Sleeps Tonight)』のフランス語タイトル Le lion est mort ce soirを訳したもの。フランスではHenri Salvador、Pow woWのカバーが有名だ。

歌詞も英語と比べると、本当に寝ているから死ぬに変わっています。

The Tokens版

In the jungle, the mighty jungle
The lion sleeps tonight
In the jungle, the quiet jungle
The lion sleeps tonight

The Tokens版和訳

ジャングルでは、巨大なジャングルでは
今夜もライオンは寝ている
ジャングルでは、静かなジャングルでは
今夜もライオンは寝ている

Pow woW版

Dans la jungle, terrible jungle
Le lion est mort ce soir
Et les hommes tranquilles s’endorment
Le lion est mort ce soir

Pow woW版和訳

ジャングルでは、厳しいジャングルで
今夜ライオンは死んでいる
そして男たちは静かに眠りに落ちる
今夜ライオンは死んでいる

つまり諏訪敦彦監督はLéaudとLeoを掛けて尚且つ、生と死の両方の側面を持つ曲から本作のイメージを引き出したのだ。このタイトル程、深い意味を持たせた映画は滅多に見かけない。しかも日本人監督作では、まず見かけないだけに衝撃を受けた。

最後に…

ここ数年、日本人監督が海外へ出て映画を作ることが多くなったと思う。昨年だと、『バンコクナイツ

』や『BLANKA ブランカとギター弾き

』『鉱』『リベリアの白い血』といった作品があった。

やはり、この手の作品を観ると、監督の意欲に圧倒される。これからもドンドン、日本人が海外へ飛び出し、意欲的な作品が作られることを祈るとしよう。

とにかく、この『ライオンは今夜死ぬ』は諏訪映画最高傑作であった。

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