希望のかなた(2017)
Toivon tuolla puolen(2017)
監督:アキ・カウリスマキ
出演:シェルワン・ハジ,
サカリ・クオスマネン,
カティ・オウティネンetc
もくじ
評価:5億点
月曜日に難民映画祭に行ってきました。難民映画祭は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が主催となって、日本人にはあまり馴染みがない難民問題に少しでも関心を持って貰うことをコンセプトにした映画祭です。倍率高い抽選に当たり、この度アキ・カウリスマキ最新作「希望のかなた」を観ることになりました。今年行われたベルリン国際映画祭で監督賞を受賞した本作。アキ・カウリスマキ難民三部作の第二弾ではあるが、監督が引退宣言をした作品です。果たしてどんな作品だろうか?
「希望のかなた」あらすじ
シリアから妹と一緒に逃げてきた青年カリードは、妹と離ればなれになりながらも命がけでフィンランドにたどり着く。一方、妻と別れた男ビクストロムは、一念発起してレストランを運営しようとする…語らず、笑いで包むこれぞカウリスマキの怒りだ!
「ル・アーブルの靴みがき」で難民問題を独特のユーモアで演出したアキ・カウリスマキ監督が、近年デンマークを始め北欧内でも難民問題を巡って受け入れ反対運動を起きている状況、そしてシリアのアレッポで起きている惨劇に怒りを表明し、監督最高傑作でないかと思うほど洗練されたドラマがここに誕生した。本作は、日本映画やハリウッドで作られるホロコースト映画が陥りがちな「台詞で哀しさを表現する」というものを徹底して排除している。まるで絵画のように、そのシーンを観ただけで状況を観客に伝えるのだ。冒頭10分、ほとんど台詞はない。「ル・アーブルの靴みがき」同様、意外なところから難民が現れるところから始まる。目線や風貌だけで、この難民がいかに命がけでフィンランドにやってきたかがよく分かる。
そしてシーンは変わり、妻と別れた男の人生が描かれる。男は鍵を置く。妻を何度も観て家を出てく。別に「出てくぞ!」なんて台詞は必要ない。邦画だったら余計に心情を語ってしまうシーンだが、カウリスマキは男の立ち姿、挙動だけで総てを表してしまうのです。
そして、難民と男の人生が交互に描かれる。まるで「海は燃えている」を観ているかのよう。現地民の知らぬ世界、それも紙一重しか離れていない場所で壮絶な逃避行が行われているのです。
「アンネの日記」か?「シンドラーのリスト」か?
本作を観ていると、今や心の余裕がなくなり、難民を押しつけ合う先進国に対してカウリスマキが怒りを投げつけているように見えます。この「希望のかなた」では、難民、ホームレス、障がい者たちが貧しいながらも、寄付をしたり、差別や暴力に襲われている人を助けたりする姿が描かれる。それもユーモラスに描くので全く説教臭さがない。
そして、どんな状態でもしれっと人を助けるシーンは「シンドラーのリスト」を思わせ、そして難民を臨時的に匿う部屋の感じは「アンネの日記」を彷彿とさせられる。第二次世界大戦から半世紀以上も経っているが、現代でも同じ事が起きている。差別やお役所的過ぎる国の中で、ひっそりと生きるしかできない真実がフィンランドにあるんだというカウリスマキの主張にブンブンは圧倒されたのです。
実はコメディ
そんな「希望のかなた」ですが、こう聞くと重い映画に見えるかも知れない。しかし、本作はコメディです。まず、なんと言っても、主人公達の心を代弁するように途中にイカしたバンドマンが歌を歌う。バンドマンの中には、フィンランドの人気ロック歌手Tuomari Nurmioや、あの「過去のない男」でも登場したバンド、マルコ・ハーヴィスト&ポウタハウカ(Marko Haavisto&Poutahaukat)も歌います。また、フィンランドで活躍する日本人バンドマンToshitake Shinoharaの渋い曲が流れる。これがメチャクチャ和むんですよ。そして、どんな苦境に立たされても、島耕作のように「大変なことになったなー」とのらりくらりとする。真顔でおかしな事も粛々とする人々にズッキュン心奪われるんですよ。
そしてジェットコースターのように後半畳みかける抱腹絶倒のギャグシーンに、多幸感を得る。難民映画なのに、こんなに笑えて良いのかと後ろめたさを感じるほど面白い。
シェルワン・ハジ登壇
上映終了後、主演を演じたシェルワン・ハジが登壇されました。彼はシリア出身の俳優で内戦が激化する前の2010年にフィンランドに移住した方です。実はハジさんは難民ではなく、ある女性のためにフィンランドに移住したとのこと。彼自身「ボクは愛の難民さ」と語っていました。
そんな彼はここ7年ほど俳優業から離れていたのだが、ある日プロダクションからオファーがあり俳優業を復活させたとのこと。この時点では、まさかアキ・カウリスマキの新作に出るなど思ってもいなかっただけに、監督が明らかになりびっくりしたと語っていました。
そんな彼がシリア難民役を演じたことについて、「緊張と興奮があった」と語っている。憧れのアキ・カウリスマキ監督作に出演した「夢がかなったぞ」という嬉しい気持ちと難民を演じる重い責任に対する恐怖が彼の中にありました。
アキ・カウリスマキの想い
また、シェルワン・ハジは、アキ・カウリスマキについて「中東の、それも中東女性のステレオタイプのイメージを壊したかった」のではと語っている。中東の女性と言えば、ニンジャのように顔を隠し、男に従うイメージが強い。しかし、本作で登場する難民の女性は力強い。
それを「死ぬのは簡単。だけど生きたい!」という台詞に込めたのです。
最後に…
本作は日本公開12/2(土)ユーロスペースにて公開と随分先なのですが、「レゴ バットマン
」を抜きブンブンシネマランキング洋画部門暫定1位の作品です。募金とか難民とか、ユニセフとか、幼少期に体験した厭な思い出から嫌悪感を示していたブンブンですらココロヲ動かされた。
それこそ吉祥寺のサクラダファミリアことココロヲ・動かす・映画館(愛称:ココマルシアター)で上映すべき案件だ(無論、あんな杜撰な経営の映画館で上映してはアキ・カウリスマキ監督にもシェルワン・ハジにも申し訳ない)。
最後にシェルワン・ハジは、学習で得た知識で人を見てはいけない。個人として接したら、難民問題も自分たちの問題になるだろう。自分の友だちが窮地に遭っていたら助けるだろ!という言葉でブンブンの感想を終わります。
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