母と暮らせば
監督:山田洋次
出演:二宮和也、吉永小百合、黒木華etc
評価:80点
山田洋次は年老いてもチャレンジングさを失わない
監督である。「おとうと」「東京家族」と最近は、
かつての巨匠が作った日本映画史に残る作品の
リメイクと流石の山田洋次さん喧嘩売りすぎ
ですよとツッコみたくなる作品や、
今のご時世に合わないような撮り方である
「小さいおうち」を作っている。
しかしながら、84歳の巨匠・山田洋次は
某監督とは違って傲慢になることなく、
また豪華キャストを無駄遣いすることなく
独自のアプローチで描くから不快になることはない。
さて、今回の「母と暮らせば」。
映画好きならピンと来るであろう
井上ひさし原作、
黒木和雄監督の「父と暮らせば」の
アプローチを変えた作品であると。
ブンブン、残念ながらそちらを観ていない
為予告編判断なのですが、あれも独特な
演出が見受けられる作品であった。
「この空の花 長岡花火物語
」同様、
監督の持てる技術総動員して描いた
或る種遺言状的作品であった…
フィルム、そして二宮和也…
予告編では分かりにくいのだが、本作はフィルムで撮られている。
そう聞くと、グザヴィエ・ドランやポール・トーマス・アンダーゾン
のようにアート性高いフィルム感をイメージするだろう。
しかし、山田洋次は文字通りフィルムの質感を完全再現している。
なので、タイトルや冒頭のキャスティングテロップがえらく
汚いのである。2015年の作品かと思う程のくすみっぷりだ。
そして、そこから怒濤の映像技術の嵐である。
岡村喜八か!松竹ヌーヴェルヴァーグか!と思う程、
不思議なカメラワークで白黒画面を行き来する、
そして完全現代顔である二宮和也が動き回る。
普通だったら、戦争がテーマの映画の主人公に
現代顔は採用しない筈である。
しかし、妙な違和感が見事にマッチしているのである。
昔のインディーズ映画と同じ違和感を再現しているため、
クールさすら感じる。
そして、戦後3年目のパートに移り
吉永小百合と幽霊となった二宮和也の
もはやラブストーリーと言って良いほどの
アツアツでエモーショナルなドラマが展開される。
王道の小津安二郎ショットで行くように見せかけて、
とんでもない角度から、撮る
(特に二宮和也の足だけを魅せるシーンが衝撃的)。
イマジナリーラインもわざと違和感ありありに
越えてみせる。普通だったら、あまりにぶっ飛んだ
撮り方な為、苦情ものなのだが、
これに繊細な「味」を持たせるから山田洋次は凄い。
二宮和也の使い方も恐ろしいくらい、
それこそ彼の演技力を300%引き出している。
確かに、彼は16cmの女の子との情事を
描いた「南くんの恋人」や
根本的に主人公の性格が変わる衝撃作
「プラチナデータ」、さらには宇宙人を
演じた「暗殺教室」と変な役を結構こなしている
ので演技は期待できる。
能力をここまで伸ばした監督はいないだろう。
悲しくなると消えてしまう、幽霊。
恋人想いが強い幽霊。
時を記憶で駆け抜ける幽霊。
アイドル史上最も難解な演技に
挑戦させ、見事育てきった山田洋次尊敬である。
ストーリーこそ、結構幽霊がご都合主義だったり、
後半雑に時間飛ばしをしていたものの、
映画好きは観るべき作品。
ただの反戦映画ではない逸品でした。
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