「八重子のハミング」高橋洋子が怪演!介護問題とカフカの「変身」意外な共通点

八重子のハミング(2017)

監督:佐々部清
出演:升毅、高橋洋子、
文音etc

評価:65点

3月末に映画仲間から、「5月に公開される『八重子のハミング』って作品ゼッタイ観て!すげーから」と言われた。監督は、「東京難民」でブンブンシネマランキングにランクインしたこともある佐々部清。一番有名どころで「ツレがうつになりまして。

」「夕凪の街 桜の国」を撮られている。彼が、自分で資金を集めて作った作品が今回紹介する「八重子のハミング」です。果たして…

「八重子のハミング」あらすじ

実話ベースの同名小説の映画化。癌になった男と若年性アルツハイマーになった妻の12年間を追う。

現代の「変身」

人類が長生きを求め医療を発達させた事に対する神からの罰であろう病アルツハイマー。本当に21世紀におけるバベルの塔ではないかと思う程人々を狂わせる。定期的にニュースでは、介護疲れによる自殺、心中、殺人が話題に挙がる。ある意味、これは現代におけるカフカの「変身」ともとれよう。健常な人間として生活できなかった者が、家族や世間体を気にしてドンドン墜ちていく。家族も、家族という地獄に縛られ身動きがとれない。そして、虫になった男を虐待する。100年以上前の小説にも関わらず、現代に通じるものがあります。

話は逸れたが、この「八重子のハミング」はそこら辺の介護映画の比じゃないほど、リアルな介護を魅せつけてくる。介護映画といえば、「0.5ミリ」や「ペコロスの母に会いに行く」が記憶に新しいが、あんなのはコメディでしかない。実際はもっと強烈で極限の生活だということを本作は観客に思い知らせてくれる。

例えば、アルツハイマーの妻が街を徘徊し、車に引かれそうになるシーンがある。彼女を助けてくれた女性が、男に「トラックがかわいそうよ。施設に入れてあげないとだめでしょ。」と言う。また妻は、娘の晴れの舞台である結婚式で粗相をする。あんなに花が好きだったのに、大切な植木鉢を壊す。もはや妻には愛する夫のことは分からない。

そりゃ自殺や殺人が起きるわけだ。妻が妻でなくなる。妻の世界から愛も家族も消えてしまう。しかもここは日本。スイスのように尊厳死なんてものはできない。この地獄が観ていて辛かった。本当にカフカの「変身」そのものの世界がココにはあります。

高橋洋子の演技に注目

本作でアルツハイマーの妻を演じたのは高橋洋子。寺山修司の「さらば箱舟」で有名な女優さんだが、これがメチャクチャ上手い。人間って面白い生き物で、目を見るだけでその人の正気が分かってしまうもの。知的障がい者やアルツハイマーを演じる際に、「別次元を見ている目」というものが重要になってくる。高橋洋子は見事に、もはや現実世界にいない人の目をしている。実際に、ブンブンも10年くらい祖父がアルツハイマーになって、段々自我を失っていく様子を見てきているだけに高橋洋子の演技はホンモノそのものでした。

後半になればなるほど、濁点混じりの「あ」しか言わない。とにかく慟哭しまくる訳だが、鳥肌が立つほど凄かった。

惜しい

ただ、本作は非常に惜しい作品でもありました。監督の作家性というところもあるんだと思うが、全体的に絵面がダサかったりする。「0.5ミリ」や「ペコロスの母に会いに行く」の時は気にならなかったのだが、私の肌に合わない映像だったのが痛いところ。私が映画に適応できなかっただけなのでしょうがないのですが。

また正直、ナレーションが多く饒舌過ぎます「愛、アムール」のような静かな間が欲しかった。

とはいっても、本作は若い人程観た方が良いほど、介護のA to Zが描かれていたので是非スバル座でウォッチしてみてください。

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