【第76回ベルリン国際映画祭】『Everybody Digs Bill Evans』みんなビル・エヴァンスの日常を知らない

Everybody Digs Bill Evans(2026)

監督:グラント・ジー
出演:アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ビル・プルマン、ローリー・メトカーフetc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『Everybody Digs Bill Evans』あらすじ

New York, June 1961. Legendary jazz pianist Bill Evans has found his musical voice and created the perfect trio, including bass player Scott LaFaro, his musical soulmate. A residency at New York’s Village Vanguard culminates in the live taping of two of the greatest jazz records of all time in one day. Only a few days later, LaFaro dies tragically in a car crash. Numb with grief, Evans stops playing for the first time since his childhood. This is the story of what happened next for one of the most influential and gifted figures in 20th century music.
Cutting between Evans’ present and future, his sobriety and intoxication, and his relationships with his family and on/off girlfriend, who shares his taste in music and hard drugs, the film portrays the inner life of a troubled musical genius as he struggles to learn that sometimes an intermission is part of the music.
訳:1961年6月、ニューヨーク。伝説のジャズピアニスト、ビル・エヴァンスは自身の音楽的才能を見つけ、ソウルメイトであるベーシストのスコット・ラファロを含む完璧なトリオを結成した。ニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードでのレジデンシー公演は、史上最高のジャズ・レコード2枚を1日でライブ録音することで最高潮に達した。しかし、その数日後、ラファロは交通事故で悲劇的な死を遂げる。深い悲しみに打ちひしがれたエヴァンスは、幼少期以来初めて演奏をやめてしまう。これは、20世紀の音楽界で最も影響力があり才能に恵まれた人物のその後を描いた物語である。
エヴァンスの現在と未来、しらふとしている状態と酩酊状態、そして家族や、音楽とハードドラッグの嗜好を共有する浮き沈みの激しい恋人との関係を織り交ぜながら、この映画は、時として休止も音楽の一部であることを学ぼうとする、悩める天才音楽家の内面を描いている。

※ベルリン国際映画祭より引用

みんなビル・エヴァンスの日常を知らない

第76回ベルリン国際映画祭で監督賞を受賞した作品。音楽ドキュメンタリーを手掛けるグラント・ジー監督がジャズピアニストであるビル・エヴァンスの素顔を追った劇映画を撮った。ビル・エヴァンス役は、ヨアキム・トリアー作品常連のアンダース・ダニエルセン・リーである。タイトルは、ビル・エヴァンスが1959年に発表したアルバム《Everybody Digs Bill Evans(みんなビル・エヴァンスが好き)》から取られている。

矢田部吉彦シネマ・ラタトゥイユによれば、本作は音楽の版権取得に苦慮したらしく、ビル・エヴァンスの楽曲はあまり使われていない。それ故か、映画もビル・エヴァンスの身にあった悲劇以降を描いており、よくある音楽伝記映画のような盛り上がりを期待して観ると肩透かしを食らう内容となっている。

映画は3つの時代に分かれており、最初の1960年代パートは白黒となっている。最強の相棒スコット・ラファロを交えたヴィレッジ・ヴァンガードでのライブを成功に収めたビル・エヴァンス。しかし、その直後に交通事故でラファロを失ってしまう。悲しみに暮れるビル・エヴァンスはジャズから距離を置き、引き篭もりのような生活を送る。映画の前半は、ジャズピアニストのペルソナを剥いだビル・エヴァンスの間延びした日常が展開される。後半では1980年代に飛び、サイケデリックなカラーの色彩の中、薬物に溺れ自暴自棄となったビルの姿が映し出される。この場面の色彩表現が強烈であり、車の中に差し込む赤と緑の光線があまりにも毒々しく、ビルの心象世界を端的に表現している。

ビル・エヴァンスに思い入れのない私にとっては、この映画をどのように評価したらよいか迷うところがある。ビル・エヴァンス好きは果たしてこの作品を気に入るのだろうか?ただ、少なくとも演出はクールであり監督賞受賞も納得である。