『ありふれた教室』こんな学校は嫌だ

ありふれた教室(2023)
原題:Das Lehrerzimmer
英題:The Teacher’s Lounge

監督:イルケル・チャタク
出演:レオニー・ベネシュ、レオナルト・シュテットニッシュ、エーファ・レーバウetc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第76回ベルリン国際映画祭でイルケル・チャタク『Yellow Letters』が金熊賞を受賞した。Xでの評判が微妙だったのでダークホースだったのだが、政治的立場でキャンセルされる人たちを描いた内容と聞いて、ヴィム・ヴェンダースが取材でパレスチナ問題を訊かれ炎上した件を踏まえると必然的な受賞だったといえる。取材の文脈を確認するに、逃げられない状態でワザと難しい質問をして瞬発力を求め、どのように答えても炎上する導線を作っているように思えて、取材者の悪意を感じた。対話ではなく、キャンセルするための質問って印象を受けた。近年、政治も社会も対話不能に陥っており自分の所属する領域によって判断される時代になっている。『Yellow Letters』はそんな時代に映画が何をできるのかを扱っている点で重要な作品だと思われる。閑話休題、イルケル・チャタク過去作を観ていなかったので急遽『ありふれた教室』を鑑賞した。

『ありふれた教室』あらすじ

ある中学校で発生した小さな事件が予想もつかない方向へと進み、校内の秩序が崩壊していく様を、ひとりの新任教師の目を通して描いたサスペンススリラー。ドイツの新鋭監督イルケル・チャタクの長編4作目。

仕事熱心で正義感の強い若手教師のカーラは、新たに赴任した中学校で1年生のクラスを受け持ち、同僚や生徒の信頼を得ていく。ある時、校内で盗難事件が相次ぎ、カーラの教え子が犯人として疑われる。校長らの強引な調査に反発したカーラは、独自に犯人捜しを開始。ひそかに職員室の様子を撮影した映像に、ある人物が盗みを働く瞬間が収められていた。しかし、盗難事件をめぐるカーラや学校側の対応は、やがて保護者の批判や生徒の反発、同僚教師との対立といった事態を招いてしまう。後戻りのできないカーラは、次第に孤立無援の窮地に追い込まれていく。

主演は映画「白いリボン」やテレビシリーズ「THE SWARM ザ・スウォーム」で活躍するレオニー・ベネシュ。ドイツのアカデミー賞にあたるドイツ映画賞で作品賞はじめ5部門を受賞。第96回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされた。

映画.comより引用

こんな学校は嫌だ

カンニングやライターの持ち込みと問題を抱える学校。この学校ではゼロトラストの体制を取っており、不審な事象があれば人を疑って事情聴取することとなっている。学校で万引きが多発しているらしい。疑いのある生徒を呼び出す。場合によっては保護者も呼ぶ。呼ばれた生徒や保護者の面子はつぶれる。若手教師のカーラはこのやり方が人道的であるかどうか疑問を抱きつつも、組織の圧力に従わざるを得なかった。しかしある日、自分の金が盗まれていることに気づく。犯人捜しで録画映像を探っていたところ、同僚が盗んでいたことに気づく。盗んだ人を問い詰め、内々で済ませようとするも口論となり、校長に仲介してもらうこととなるが、これが原因で先生間の軋轢も激しくなり、終いには学級崩壊へと発展してしまう。

教員免許を持っている身として、改めて教員ってハードな仕事だと感じた。財布の盗難事件自体、私が高校時代にもあった。生徒間で「アイツが盗んだんじゃね」と噂が立っていたが、結果として穏便に済んだ。その裏では教員の政治的調整が巧くいっていたんだなと思う。一方で、中学から高校にかけて学級崩壊で地理の先生と化学の先生が辞めている。生徒からしたらそれは思い出として処理されるが、先生側としては人生を破壊された上に被害者として生徒を追及することも難しい泣き寝入りの状態である。教員は一度「敵」認定されると復帰が難しい。保護者と一体となって攻撃してくる。

『ありふれた教室』でのカーラは生徒を管理する者として的確に予兆を検知して、生徒たちの反抗に対しても動じることなくルールに従って対応していく。しかし、タイミングがズレたり、自分の判断が間違っていたのかもしれないといった心の隙をみせた途端、雪崩のように関係性が崩れていく。教育現場にいた身としてこれほど怖い映画はないだろうと震えたのであった。