『カッコウ』ターボババアの格好の餌食

カッコウ(2024)
CUCKOO

監督:ティルマン・シンガー
出演:ハンター・シェイファー、ヤン・ブルートハルト、マートン・ソーカス、ジェシカ・ヘンウィックetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『Luz』でビデオマーケット界隈を騒然とさせたティルマン・シンガー新作がプライムビデオで配信された。ビデオマーケット界隈に浸透し、アメリカでの配給がNEONということもあり一般公開が期待されたがやはり知名度の問題かトリッキーな作品故のスルーか劇場で拝むことができず悲しかったが、前作以上にパワーアップした世界観に惹き込まれた。

『カッコウ』あらすじ

両親の離婚により、母親と2人暮らしをしていた17歳のグレッチェン(ハンター・シェイファー)。あるきっかけで、気の進まないまま父親のルイス、義母のベス、そして2人の娘である妹のアルマと、ドイツの山奥にあるリゾート地へ移り住むことに。到着した一家を待ち受けていたのは、謎めいたホテルオーナーのケーニヒだった。口のきけないアルマに対し、不可解な興味をあらわにするケーニヒ。グレッチェンは、その静かなリゾート地に強い違和感を覚えてゆく。

※Filmarksより引用

ターボババアの格好の餌食

母が死に悲しみに暮れたグレッチェンはアルプスのリゾート地へ移り住む。人との付き合いに難ある彼女はホテルの手伝いをすることになるが、そこで異変が発生する。異母妹が超音波のような高音を発する。またホテルでは体調不良者が現れる。そんなある日、グレッチェンは夜道を自転車で走らせているとターボババアのような存在が追いかけてくる。なんとか逃げ切り警察に事情を話すも、適当に処理されてしまう。そして怪異がまた一歩、そしてまた一歩、彼女へと忍び寄る。

本作は技術力を上げたティルマン・シンガーが実写版『AKIRA』をやろうとする。自転車を金田の盗難車のようにスライドさせるクリシェはもちろん、超能力で空間が歪む様、病院での気持ち悪い悪夢と『AKIRA』の要素を引用してくる。その中で、精神病んだ者の心の距離感を捉えていく。彼女は事実を周囲に伝えようとする。しかし、その事実の片鱗が横滑りして妙に伝わらない。そして、どこか蔑視の眼差しが向けられる。そして周囲から降ってかかる真実は自分の意識しているものとは異なり困惑し心身共に傷ついていくのだ。

ここで演出として面白い点が2つある。まずは、ゲーム「UNDERTALE」のように短期間でカットを割り、場面を複数回反復させながら怪異と対峙する場面だ。ターボババアが迫りくる状況でグレッチェンはベッドから木の板を出して割るのだが、複数回全く同じショットが繰り返される。これは、不安を抱える者がその不安と対峙する時に、何度もトラウマを脳内再生してしまう現象の表象として良くできている。

そして次に空間をゆがめる演出である。超能力を扱った作品では通常、高音によってガラスを割る。しかし、本作ではガラスはほとんど割れない。歪んだ空間に人を晒すことで苦痛を与えているのだ。フォーカスが当たった人間と手振れの背景のバランスがカッコ良く魅了された。

銃口の先とは異なるレイヤーに敵が出現したり、「撫物語」さながらの棚ドミノ倒しといった見所満載で素晴らしかった。