【カンヌ監督週間 in Tokio 2025】『ミラーズ No.3』機能不全を埋めるピースになる

ミラーズ No.3(2025)
Miroirs No.3

監督:クリスティアン・ペッツォルト
出演:パウラ・ベーア、バルバラ・アウア、マティアス・ブラント、エンノ・トレプスetc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

なぜか会社の忘年会が消滅したので、急遽ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催中のカンヌ監督週間 in Tokio 2025にてクリスチャン・ペッツォルト『ミラーズ No.3』を観た。ペッツォルト監督作は『水を抱く女』と『Afire』ぐらいしか観ておらず、まだ作家性にピンと来ていない。変な映画を作る人という漠然としたイメージしかない。ラヴェル の「鏡 第3曲《海原の小舟》」からタイトルを取った本作は、一見すると『君の名前で僕を呼んで』のようなバカンス映画を想像するが、どちらかといえばラモン・チュルヒャー『煙突の中の雀』をさらに機能不全にさせたような作品であった。

『ミラーズ No.3』あらすじ

ベルリンの大学に通う女性のラウラは、田舎での交通事故を奇跡的に回避するがショック状態に陥り、近所に住む主婦のベティの世話になる。ラウラはベティを母のように慕い、ベルリンに戻らずベティの家に留まる。ベティも戸惑いながら受け入れるが…。運命のツィストに翻弄される人々の姿を鮮やかに描くヒューマン・ドラマ。ドイツ映画界を代表する存在のひとり、クリスチャン・ペッツォルト監督最新作。

※カンヌ監督週間 in Tokio 2025より引用

機能不全を埋めるピースになる

家族ないしカップルとしてのしがらみから逃れるように旅の途中で帰宅しようとするラウラは車の横転事故に巻き込まれる。パートナーは死亡し、投げ出された彼女は、それを目撃していた主婦のベティに介抱される。しばらくベティの家に居候することとなったラウラだったが、この家族の機能不全に気づかされる。そして依存関係へと発展していくのだが、終盤にその正体が見えてくる。

要は機能不全を抱える存在が、他の領域における機能不全を俯瞰することでアイデンティティを再構築しようとする心理劇となっている。劇中には、壊れたキッチン、機能しない自転車、開きっぱなしの扉といった不完全なモチーフが並べられ、その不完全さを埋めるピースとしてラウラがいるような構図となっている。ラモン・チュルヒャーの映画が機能的に機能不全を描いていたのにたいし、こちらは敢えてだろう、機能不全を機能不全なまま描いているため、中途半端に投げたクライマックスとなっている。これが上手くいっているように感じるかどうかが評価の分かれ目であるが、個人的にはそこまで刺さらずであった。