『過去と現在―昔の恋、今の恋』通俗とはなにか?

過去と現在―昔の恋、今の恋(1972)
O PASSADO E O PRESENTE

監督:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:マリア・デ・サイセット、マヌエラ・デ・フレイタス、バルバラ・ビエイラ、アルベルト・イナシオetc

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

アテネ・フランセで行われたマノエル・ド・オリヴェイラに足を運んだ。この日のアテネ・フランセは八甲田山かと思うほどに酷寒な中、2本の作品を観た。1本目は『過去と現在―昔の恋、今の恋』である。

『過去と現在―昔の恋、今の恋』あらすじ

オリヴェイラによる「挫折した愛」4部作の最初の作品。亡き夫リカルドへの愛を募らせる妻ヴァンダに耐えかねて新しい夫フィルミーノが自殺する。するとリカルドの双子の弟ダニエルが現れて、自分こそが本当のリカルドで、死んだのは弟の方だと告白する。しかしヴァンダは「生き返った」リカルドを前にすると、今度は死んだフィルミーノへの愛を募らせていく。「『過去と現在』について今言えることは、62歳にして最も若いポルトガル映画監督が、彼の最高にして最も知的な映画を作ったということ以外にない」(ジョアン・セーザル・モンテイロ)

※アテネ・フランセより引用

通俗とはなにか?

マノエル・ド・オリヴェイラ監督作品は一見、高尚な文学作品に思えて、実は俗っぽかったりする。本作は、複数の恋と死を重ね合わせ、その反復によって笑いが増幅されていく仕組みとなっており、後半はデッドパンコメディとなっている。ただし、冒頭ブレッソン『ラルジャン』がごとく人から人の手に手紙が渡っていく様子からわかるように理論派な映画でもある。反復により通俗さの本質へと向かっていくわけだが、それを肉付けするように映画における過去の位置づけが強調されている。中でも飛び降りを行う直前、写真=過去、手紙=現実から過去になるものの中間で葛藤し、現実の行動へ移していくおっさんの運動には惹かれるものがあった。