『The History of Sound』書く行為の転用としての音楽

The History of Sound(2025)

監督:オリバー・ハーマヌス
出演:ポール・メスカル、ジョシュ・オコナー、ピーター・マーク・ケンドール、クリス・クーパー、モリー・プライスetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

日本では黒澤明『生きる』のリメイクで知られるようになったオリバー・ハーマヌス監督だが、その認識はニコラス・ウィンディング・レフン『ドライヴ』に近い。要はフィルモグラフィーの中ではかなりの異端であるのだ。

『The History of Sound』あらすじ

Two young men during World War I set out to record the lives, voices and music of their American countrymen.
訳:第一次世界大戦中、二人の青年がアメリカ国民の生活、声、そして音楽を記録するために旅に出た。

IMDbより引用

書く行為の転用としての音楽

南アフリカ出身のオリバー・ハーマヌス監督は同性愛にまつわる作品を軸としており、『Beauty』『Moffie』でスリリングでリスキーな描写でもって同性愛と社会との関係に鋭い眼差しを向けた。

カンヌ国際映画祭に出品された『The History of Sound』もまた、同性愛を扱った作品であり一貫している。一方で、本作は『生きる LIVING』後ともいえよう雰囲気の変容が見受けられ、以前のような荒々しさは息を潜め、静謐に思える世界の中で抱く葛藤へとフォーカスが当たっている。

ニューイングランド音楽院の音楽学生ライオネルはパブでデイヴィッドと出会い同性愛たる関係となっていく。しかし、時は第一次世界大戦。デイヴィッドは徴兵され、ライオネルは学校の閉鎖、父の死で音楽の道を諦めることとなる。数年後、デイヴィッドからフォークソングを集める旅に同行してほしいと頼まれ再び親密な関係となるが、またしても別れてしまう。

本作は、音楽を通じて繋がっては別れを繰り返すライオネルとデイヴィッドとの関係を通じて人生の侘び寂びを表現した内容。物語としてダラダラとしているような印象があるため、カンヌ国際映画祭上映時に低評価だったのも納得だが、感傷的なムードに包まれた人生の悲哀と刹那の感動は日本の観客の方が受け入れられるような気がする。

なんといっても、過去を象徴するものとして物理的な音楽がある点が重要であり、通常は紙を主体にこの手の演出はされるのだが、音を集めていき、最終的に独り愛でる着地へと向かっていく過程が美しく、個人的には好きな一本であった。