【第38回東京国際映画祭】『アトロピア』架空都市で役割を渇望して

アトロピア(2025)
Atropia

監督:ヘイリー・ゲイツ
出演:アリア・ショウカット、クロエ・セヴィニー、カラム・ターナー、Zahra Alzubaidi、トビー・ニコルズetc

評価:80点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

第38回東京国際映画祭参加、11/1(土)は4本の作品を観たのだが、前3作が良くなく、全滅の予兆を感じ取っていたのだが、最後に観た『アトロピア』は素晴らしい一本で救われた。

『アトロピア』あらすじ

中東での戦争に派遣される米軍の兵士の訓練のために、中東の街並みを映画セットのように再現した砂漠の中の架空都市「アトロピア」。この架空都市で働くイラク系アメリカ人の女優、若い兵士、そして潜入したジャーナリストを主人公に、現実と訓練、仮想空間、そして隠された陰謀が入り混じるユニークな物語が展開する風刺ドラマ。ヘイリー・ゲイツが2019年に監督した短編映画“Shako Mako”で扱った題材を、長編劇映画として発展させた監督デビュー作。軍と映画産業のつながりが示唆される点も興味深い。“Shako Mako”に主演したアリア・ショウカットが本作でも主演を演じる。『君の名前で僕を呼んで』(17)のルカ・グァダニーノがプロデューサーを務めている。

※第38回東京国際映画祭サイトより引用

架空都市で役割を渇望して

アメリカにある架空都市「アトロピア」では、イラクに兵を送るため、イラクを再現している。イラク系アメリカ人はこの地で役者に徹し、シナリオ通り動くことが求められている。主人公は、その役割を全うしようと、良い役回りが来ることを祈り迫真の演技をする。そんな中、主人公になれそうな局面と対峙する。

通常であれば映画ないし演劇と現実といった構図の中で人間の曖昧さを描くのだが、本作は架空都市でそれをやってみせる、しかもそういった都市は実在するといったところに驚かされる。そして、アメリカ映画の軸である役割の受容を主軸とし、本土イラク人になりきりろうとする中で虚構的スペクタクルを通じた間接的イラクへの加害が果たされてしまう様を風刺している。要は役割を全うしようとする中で、知覚できない領域に侵攻してしまう様が描かれているのだ。この構図が興味深い。実際、アトロピアの中ではNPCとして抑圧されている。数少ないセリフや役割を全うすることで、もしかしたらスカウトされて映画女優になれるのかもしれない。微かな夢を抱きながら刹那の役割を全うする様とそれが果たされることでイラクにおける名もなき市民を踏みにじることに繋がる点が結びついている。この慧眼さに惹き込まれた。