HEN(2025)
監督:パールフィ・ジョルジ
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
『タクシデルミア ある剥製師の遺言』や『ファイナル・カット』で知られるハンガリーの鬼才パールフィ・ジョルジ。ハンガリー情勢によって映画が自由に撮れないらしく、ギリシャにて新作を撮影した。ギリシャ語がわからないにもかかわらず。そして、その新作は、映画のほとんどが雌鶏目線の作品であった。そんな異色作『HEN』を観たのだが、まさしく「ヘン」な映画であった。
『HEN』あらすじ
As we follow the adventurous story of a hen desperate to raise a family, a terrible human tragedy unfolds in the background.
訳:必死に家族を育てようとする雌鶏の冒険物語を追っていくと、その背景で恐ろしい人間の悲劇が展開していきます。
あたいの卵を搾取しないで
雌鶏の尻が映し出される。卵が前進/後退するフェティッシュなショットから始まり、卵がシステマティックに出荷される過程が描かれる。そして鶏自体もトラックへと詰められる。黒い雌鶏は、トラックの座席に座ることとなり移動を開始するのだが、ガソリンスタンドで休憩している最中に逃亡し、安息の地を目指すこととなる。
本作は、パールフィ・ジョルジ自身の言葉が通じない地での冒険とヨーロッパの移民問題を雌鶏の冒険に託している。搾取の構図から逃亡した雌鶏に待ち受けるのは一寸先は死の宙吊りのサスペンスである。雌鶏を狙う動物も、刹那によって死がもたらされるのである。車がビュンビュン走る道路。膨大な飼料に埋もれる。鶏小屋でのリンチ、人間社会での暴動に巻き込まれる中で社会の縮図が描かれていく。コンセプト自体は陳腐であり、実写版『Flow』といったものではあるのだが、パールフィ・ジョルジ監督作なだけに、コミカルな毒に満ちた世界観に惹き込まれた。普通に火災現場からの脱出シーンは今の時代にこんなのが観られるのかといった驚きがあった。