大長編 タローマン 万博大爆発(2025)
監督:藤井亮
出演:山口一郎
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
最近、タローマンの映画が密かに流行っているらしい。特に宣伝されているような気配はないものの10億円もの興行収入を叩き出しているらしい。とはいっても、大阪万博には色々思うところがあって、いくらイタリア館でウンベルト・ボッチョーニ「空間における連続性の唯一の形態」の本物が観られるよと言われても靡かなかったし、大阪万博プロパガンダのような映画をこの状態で観に行っても良き映画体験にはならないだろうと思っていた。
そんな矢先、唐突に観るきっかけが生まれた。
夜、ベッドに潜りながら学園アイドルマスター・藤田ことねの新曲「自己肯定感爆上げ↑↑しゅきしゅきソング」のMAD動画を漁っていたら、アイマス×山口一郎MADで知られているMUMEI氏の新作にたどり着いた。『「しゅき」及び「だいしゅき」以外の言葉を禁止されたネイティブダンサー』では、サカナクションの「ネイティブダンサー」と掛け合わせたMADとなっており、サカナクションのライブの曲転調のようなギミックを用いてそれぞれの曲を立てていく安定のクオリティとなっていた。その終盤で、突如『大長編 タローマン 万博大爆発』パロディを始めたのである。この異様さに、「これは映画を観た方が良い」と考えるようになった。そして、休日に映画館へと足を運んだ。政治的立ち位置は一旦横に置き、映画として純粋に素晴らしい作品であった。令和に鈴木清順や大林宜彦のタッチ(まあ、ソースは岡本太郎なのでそうならないとおかしいのだが)を実写で観られたことに興奮したのであった。
『大長編 タローマン 万博大爆発』あらすじ
「1970年代に放送された特撮ヒーロー番組」というコンセプトのもと、芸術家・岡本太郎のことばと作品をモチーフに制作され話題を呼んだ2022年の特撮テレビドラマ「TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇」を映画化。1970年代の日本と、当時想像されていた未来像としての2025年「昭和100年」の日本を舞台に、夢と希望に満ちた未来の世界で戦うタローマンの活躍を描き出す。
万博開催に沸き立つ1970年の日本に、万博を消滅させるため2025年の未来からやって来た恐ろしい奇獣が襲いかかる。でたらめな奇獣に対抗するにはでたらめな力が必要だが、未来の世界は秩序と常識に満ちあふれ、でたらめな力は絶滅寸前に陥っていた。CBG(地球防衛軍)は万博を守るため、タローマンとともに未来へと向かう。
テレビ版に引き続きロックバンド「サカナクション」の山口一郎が出演し、タローマンマニアという体裁でタローマンと岡本太郎について語る。テレビ版を手がけた映像作家・藤井亮が監督・脚本を手がけ、自らアニメーションやキャラクターデザイン、背景制作なども担当して独自の世界観を構築した。
なんだこれは!!
山口一郎が「世にも奇妙な物語」のタモリポジションで前説をし本編が始まる。いきなり怪獣大バトルが繰り広げられるのだが、既に異様な空気となっている。アニメ映画に近い数秒単位のカット割りと怒涛の語りの中で戦闘が行われる。タローマンやまず、巨大な鳥の奇獣をイカロスよろしく天に打ち上げ焼き鳥にする。巣に残った卵を片手に、今度はUFOのような奇獣をパカッとふたつに割り、鍋にする。焼き鳥と卵を混ぜて料理を作り始めるのだ。灯台をグラス代わりにし、水を差す奇獣から飲み物を拝借し、優雅に撃退する。こんな戦闘があるのかと興奮する。映画はスタンダードサイズ、金をかけまくったフィルムエストTVのタッチで60年代の質感を維持しながら話が展開されていく。口調やアフレコの音質は昭和そのものであるが、CGの使い方などは令和。そのギャップが不気味の谷となり独特な面白さとなる。立ち位置もクリエイター目線で語られるので『メガロポリス』に近い内容となっているのだが、こちらは市民との交流、個性的なメンバーとの混乱込みで問題を解決していくので、クリエイターの傲慢さは希釈されていると思われる。何よりも手数が多い。横長のスクリーン上部の黒帯を武器とするメタ展開に、3Dメガネの赤の部分を使ったギミックで人力ステルスをやる面白さ、昭和にしては早すぎるし令和にしては古い音声ガイダンスを使ったギャグの妙など、「なんだこれは!!」の連続に圧倒された。それでもって、本作自体は岡本太郎が大阪万博には少し懐疑的だった部分を援用し、スペクタクルが盲目をもたらす面にも切り込む意外性もあって映画として面白く観た。しかも、エンディング後も山口一郎による面白いネタが展開されるので感動すら抱いた。
※映画.comより画像引用