『バイオレント・ネイチャー』日常から非日常というより行為/中断の関係

バイオレント・ネイチャー(2024)
In A Violent Nature

監督:クリス・ナッシュ
出演:ライ・バレット、アンドレア・パヴロヴィック、キャメロン・ラブ、リース・プレスリー、リアム・レオーネ、ローレン=マリー・テイラーetc

評価:80点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

昨年、日本未公開映画界隈で話題となった「タル・ベーラが撮った13日の金曜日のような作品」あるいは「ガス・ヴァン・サントが撮った13日の金曜日のような作品」こと”In A Violent Nature”が邦題『バイオレント・ネイチャー』で公開された。2025年は『スキナマリンク』『8番出口』と実験的手法によるホラー映画が目立っている年だが、そこに本作が肩を並べた。確かに、クリス・ナッシュ自身、TIME.comのインタビュー記事”The Director of In a Violent Nature on Giving Viewers a Slasher ’Spectacle They Hadn’t Seen Before’“の中でガス・ヴァン・サントからの影響を語っているのだが、実際に観ると監督のアレンジによって全く似て非なる演出となっていたことに驚かされた。

『バイオレント・ネイチャー』あらすじ

安息の地をけがされた不死の殺人鬼が若者たちを惨殺していく姿を、殺人鬼の視点から描いたカナダ発のスラッシャーホラー。2014年のオムニバスホラー映画「ABC・オブ・デス2」に参加したクリス・ナッシュ監督が長編初監督・脚本を手がけ、過激なゴア描写で描き出す。

森の奥深くにある朽ちた火の見やぐらに、60年前の凄惨な事件に起因するジョニーの亡骸が横たわっていた。ある日、その死体とともに封印されていたペンダントが、若者たちに持ち去られてしまう。奪われた遺物を取り返すべくよみがえったジョニーは不死のゴーレムと化し、若者たちを静かに、そして容赦なく殺戮していく。

殺人鬼ジョニー役に「ブラインデッド」のライ・バレット。「サイコ・ゴアマン」の監督として知られるスティーブン・コスタンスキが特殊造形クリエイターとして参加。

映画.comより引用

日常から非日常というより行為/中断の関係

廃屋を映すショットから始まる。誰かが雑談をする中で棒に引っかかっていたネックレスを取る。すると、もぞもぞと地面が動き始め、封印されし殺人鬼が復活を遂げる。そして、映画は殺人鬼目線で殺戮の過程を捉えていく。殺人鬼はゆっくりゆっくりと歩く。その存在に気づかないターゲットは間一髪、殺人鬼を回避するが死を遅延させているだけでしかるべきタイミングで惨殺される。

確かに本作は『サタンタンゴ』や『エレファント』に近い背中を捉える長回しが特徴的ではあるのだが、3つの点でこれらとは異なる側面がある。ひとつめは、撮影の角度である。殺人鬼は少し左右に寄っており、前景が観客に見えるような画面構成となっている。これは『バイオハザード』などのゲームで見かけるような画面構造であり、『エレファント』における背後を中心に添える、あるいはFPSゲームのような主観ショットではない。次に本作は長回しに見えてかなりカットを割っている点がある。数十分、時には昼夜逆転させるような時間跳躍の中で殺人鬼を映しているため、根本的にタル・ベーラやガス・ヴァン・サントの技法とは異なる。そして、タル・ベーラやガス・ヴァン・サントは「間延びした日常の中で突然訪れる非日常」のための長回しになっているのに対し、本作はそもそも非日常的空間を軸とした内容に演出をしている点がある。

『エレファント』を例にとるとわかりやすいだろう。現実的なスクールカースト、つまり群と群がゆるく接触しながら、授業中にバレないようにいじめが行われる。どの層もダウナーな空気が流れ「何か変わったことが起こらないかな」と願う。だが、そう簡単には起きない。そして、遂に銃乱射事件が発生し、校内が騒がしくなるとトイレの女子高生たちが「授業なくなるかもね?」といつも通り、起こらないだろうスペクタクルを妄想するが最悪な形で突然それは実現される。数日経ったら忘れてしまうだろう知覚できないルーティンとしての日常の中で突発的に非日常が訪れる瞬間のために長回しが存在しているのである。

『バイオレント・ネイチャー』は、そもそも主要ターゲットである若者はバカンスできているので非日常的状況にいる。その中で最初から非日常的存在である殺人鬼が非日常的な肉体損壊を与え続ける内容となっている。では、構造として一番近いものは何か?それはアラン・ギロディである。彼の作品は私的関係に干渉できる場でもって物語を進行させる。性行為をしようとした際に第三者によって阻害される。このアクションを主軸とした作劇が特徴としてある。『バイオレント・ネイチャー』は、まさしく行為/中断の映画であり、コミュニティとしての行為を中断させる存在として殺人鬼があり、その殺人鬼の中断の行為は確実に実行される。一方で、ターゲットとなった人物は殺人鬼の中断のアクションを停止しようとするのだが、まるで丸太粉砕機のように確実に肉体は破壊されてしまう。この関係性をシンプルに描くため、殺人鬼を銃で倒しても霊的な存在として別の場所にリスポーンさせることなく、その場でむっくりと立ち上がる仕組みとなっており、興味深く観た。

※映画.comより画像引用

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