『愛はステロイド』肉体と銃による異色フィルムノワール

愛はステロイド(2024)
Love Lies Bleeding

監督:ローズ・グラス
出演:クリステン・スチュワート、ケイティ・オブライアン、ジェナ・マローン、エド・ハリス、デイヴ・フランコ、アンナ・バリシニコフetc

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日、Xで日本におけるA24ってイメージ戦略失敗している気がする話を投稿したら、少しバズった。確かにA24は現代映画における監督ではなく企業が映画のコンセプトを形成する先駆けであり、日本の映画ファンなら大抵知っているレベルの知名度にはなっている。NEONと比べるとイメージ戦略は成功しているように思えるのだが、一方でファッション映画として雑に括られており、映画としては微妙といった声をよく耳にする。これはA24の本質が十分に伝わっていないことによるミスマッチだと感じている。A24は既存の映画の枠を解体しながら新しい文法を築こうとしている。ただ、そこで取り入れるのがゲームやYouTube動画などといった他のメディアの文法だったりするので、従来型の映画を期待している者にとっては期待外れになりやすいのだ。TOHOシネマズでは現在、何か月にも渡ってA24の紹介映像を流しているのだが、いまだにこの側面に関しては語られていないのである。

閑話休題、『愛はステロイド』が評判だから観た。近年のA24作品は開発途上ということもあり迷走している映画が多いイメージがあったのだが、これは素晴らしい作品であった。レズビアン版フィルムノワールといった内容でありながら、フィクションとして面白いことをやろうとする気概に満ち溢れた意欲作であった。

『愛はステロイド』あらすじ

「スペンサー ダイアナの決意」のクリステン・スチュワートと、「ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング」などに出演した元ボディビル選手の俳優ケイティ・オブライアンが共演したクィア・ロマンス・スリラー。

1989年。トレーニングジムで働くルーは、自分の夢をかなえるためラスベガスへ向かう野心家のボディビルダー、ジャッキーと運命的な出会いを果たし恋に落ちる。しかしルーは、街の裏社会を仕切り凶悪な犯罪を繰り返す父親や、夫からDVを受けている姉など、家族にさまざまな問題を抱えていた。そんなルーをかばおうとするジャッキーは、思いもよらない犯罪網へと引きずりこまれていく。

父親を嫌悪しながらもその影響下から抜け出せないルーをスチュワート、彼女のパートナーとなるボディビルダーのジャッキーをオブライアン、圧倒的な力を持つルーの父親をエド・ハリスが演じ、ジェナ・マローン、アンナ・バリシニコフが共演。「セイント・モード 狂信」のローズ・グラス監督がメガホンをとり、ノワール、ラブストーリー、スリラー、ユーモアなど多様なジャンルを横断しながら、大胆で示唆に富んだストーリーテリングと刺激的な演出で描き出す。

映画.comより引用

肉体と銃による異色フィルムノワール

レズビアンとして肩身の狭い生活を送っているルーは闇社会を牛耳る父親、DV被害を受けている姉といった家庭問題を抱えながら、今日もダイナーにジムで働いている。そこに救世主のごとく現れたのはムキムキマッチョなジャッキーであった。すぐさま相思相愛の関係となり、ルーはジャッキーにステロイドを与え、ラスベガスでのボディビルディング大会優勝を応援しているのだが、ジャッキーが父の運営する射撃場で働き始めたことで運命の歯車が暴走してしまう。

まず、肉体と銃の扱いが素晴らしい。ジャッキーは射撃場で働いている一方で銃を使うのは卑怯だとして発砲を拒絶している。常に拳で問題を解決してきたわけだが、父による闇の引力によって銃を使うようになってしまう。心の弱さが露見するのだ。彼女の変化と対になるようにルーは、修羅場を通じて成長していく。守ってもらった代わりに自分がジャッキーを守らねばと行動に移すのだ。互いの弱みが補填されていき、絶望的な状態からハッピーエンドへと転がっていくのはフィクションならではなわけだが、そこにユニークなオチが付与される。肉体の変化による心理描写、直喩的成長の表現は『サブスタンス』を凌駕するほどに人間の本質を掴んでおり衝撃を受けた。ローズ・グラス作品は今回初めて観たのだが、追った方が良い監督だと感じたのであった。

※映画.comより画像引用