ぼくらの居場所(2021)
Scarborough
監督:シャシャ・ナカイ、リッチ・ウィリアムソン
出演:リアム・ディアス、エッセンス・フォックス、アンナ・クレア・ベイテル、フェリックス・ジェダイ・イングラム・アイザックetc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
ここ数年、カナダ映画が熱い。アシュリー・マッケンジー『Queens of Qing Dynasty』やマシュー・ランキン『ユニバーサル・ランゲージ』、ソフィア・ボーダノヴィッツ『Measures for a Funeral』など力作が国際映画祭の場で注目されている。11/7(金)より新宿シネマカリテ、11/8(土)よりシアター・イメージフォーラムよりカナダ映画『ぼくらの居場所』が公開されるのだが、これがまたしても力作であった。今回、カルチュアルライフのご厚意で一足早く鑑賞させていただいたのでレビューをアップする。
『ぼくらの居場所』あらすじ
多様な文化を持つ人々が多く暮らす、カナダ・トロント東部に位置するスカボロー。そこに暮らす3人の子供たち。
精神疾患を抱えた父親の暴力から逃げるようにスカボローにやって来たフィリピン人のビン。家族4人でシェルター
に暮らす先住民の血を引くシルヴィー。そしてネグレクトされ両親に翻弄され続けるローラ。そんな彼らが安心して
過ごせる場所は、ソーシャルワーカーのヒナが責任者を務める教育センターだった。厳しい環境下で生きながらも、
ささやかなきずなを育んでいく3人だったのだが…。
※カルチュアルライフ提供資料より引用
半径数メートルの世界を
トロント出身の男性が警察による銃撃事件に巻き込まれる『Frame394』にて第89回アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞ショートリストに選出されたシャシャ・ナカイ&リッチ・ウィリアムソン監督の初長編劇映画である『ぼくらの居場所』は、カナダの作家キャサリン・エルナンデスの実体験に基いた小説『Scarborough』を映画化した作品である。
カナダのスカボローを舞台に、精神疾患を抱えた父親によるDVから逃げたフィリピン移民、貧困にあえぐ先住民、ネグレクトされる子がソーシャルワーカーの教育センターをシェルターとして利用していく様をドキュメンタリータッチで描いている。
本作最大の特徴は撮影であろう。映画は基本的に至近距離での撮影で行われている。このように聞くと『サウルの息子』や『Playground 校庭』のようは顔のクローズアップとボカされた背景によるショットやダルデンヌ兄弟のような手振れショットをイメージするかもしれない。しかし、本作は子どもの目線から見たようなローアングルで比較的全体にピントがあったタッチで捉えられている。待合室で待っていたら手続きの問題によってブチ切れる大人、精神衰弱ギリギリの状態で生きる者をハッキリと目撃してしまう現実をカメラで切り取ってみせるのだ。
当然映画の主は子どもになるため妥当な撮影技法であるが、同時に「今」を生きるのに必死で視野が狭くなっている者たちを象徴している。生活もままならず、かといって誰に頼ったらいいのかもわからない。社会は巨大でありながら無慈悲に自分たちを蹂躙する存在である様が撮影によって強化されるのだ。そして、群像劇にすることによって半径数メートルの視野で生きる者たちが一緒になり葛藤しながらもなんとか人生に活路を見出そうとする様が浮かび上がってくる。
マシュー・ランキン『ユニバーサル・ランゲージ』では、ウィニペグのイラン移民コミュニティについて掘り下げられていたように、カナダもまた移民国家である。多様な背景を持った者たちがカナダで生活をしている。人種のサラダボウルともいえよう地カナダの片隅で生きる者にシャシャ・ナカイ&リッチ・ウィリアムソン監督は優しく真摯に眼差しを向け続けるのである。
11/7(金)より新宿シネマカリテ、11/8(土)よりシアター・イメージフォーラムより公開。
※カルチュアルライフより画像提供